(社説)NPT会議決裂 核軍縮 日本がけん引を

2022年8月30日 東京新聞

 核拡散防止条約(NPT)再検討会議が、ロシアの反対で最終文書を採択できず決裂した。NPT体制は機能不全に陥り、失望の声は世界中に広がっている。核保有国と非保有国の橋渡し役を目指す日本政府は今こそ核軍縮をけん引すべきだ。

 決裂を巡る最大の責任が、ロシアにあることは否定できまい。

 最終文書案は、ロシアが占拠するウクライナ南部のザポロジエ原発の返還に関し、ロシアを名指ししない表現に改められたが、ロシアはこれさえ拒否した。

 ザポロジエ原発は攻撃を受けて電力供給が不安定になり、放射性物質が飛散する危険性も指摘される。ロシアは以前から核兵器の使用もちらつかせており、人類を危険にさらす身勝手で危険な行動が決して許されてはならない。

 最終文書案はそもそも作成段階で、核保有国の反対により骨抜きにされていた。

 保有国に「核先制不使用」を促す文言は、米国など核保有国の強い反対で早々と削除され、核兵器用の核分裂性物質生産のモラトリアム(一時停止)を求めた記述は中国の反対で消えた。

 核軍縮を巡る数値目標や期限は当初から含まれておらず、実効性への疑問も拭えなかった。

 とはいえ最終文書案には、六月に第一回締約国会議が開かれた核兵器禁止条約に関する記述が残された。条約の存在を無視できなかったのだろう。核保有国に核廃棄や削減を迫るには、加盟国をさらに増やす努力が必要だ。

 次回の再検討会議は二〇二六年の予定だが、核保有国が身勝手に振る舞い、非保有国との対立が続けば成果は期待できそうにない。「核廃絶」を求める被爆者の願いは遠のくばかりだ。

 被爆地・広島選出の岸田文雄首相は、日本の首相として初めて再検討会議に出席、演説した。

 首相は会議決裂について、ロシアを非難しつつ、NPTを維持・強化することが現実的な道だと強調したが、ならば、被爆の実態を広く伝え、核軍縮に向けた国際世論を醸成するためにも、より積極的な外交を展開すべきである。