(社説)処理水計画認可/責任と厳しい立場銘記せよ

2022年7月23日 福島民友新聞

 東京電力福島第1原発で発生する放射性物質トリチウムを含む処理水の海洋放出について、原子力規制委員会がきのう、設備の安全性や緊急時の対応に問題はないとして計画を認可した。

 今後は県と大熊、双葉両町が、計画を了承するかどうかを検討する。検討内容は放出計画全体の安全性などに限られ、風評対策や国内外の理解醸成などは判断材料に含まれない。このため、県などは計画を了承する公算が大きい。県などが計画を了承すれば、工事を経て放出が始まる見通しだ。復興の加速や風評の悪化など、功罪両面から県民の関心事となっている処理水を巡る問題は、規制委の認可で大きな節目を迎えた。

 トリチウムが出すベータ線は紙1枚で遮れるほど弱く、外部被ばくは無視できる。海洋放出する際の濃度は国の規制基準よりも厳しく管理する。人や海産物などへの影響は極めて軽微とされる。

 海洋放出は現時点で処理水を減らす唯一の現実的な手段だが、処分の過程で安全性に疑念を持たれたり、信頼性を損ねる対応があったりすれば、風評対策は水の泡となる。国と東電は数十年にわたるとされる放出で、安全性の確保と、それを裏付ける情報を発信する姿勢を堅持することが重要だ。

 東電は、規制委の認可を必要としない「環境整備」と称し、海底トンネル掘削の準備工事を着々と進めてきた。計画の認可などを見越したような対応で、その姿勢が漁業者ら県民の神経を逆なでしていることを自覚すべきだ。計画を認可した規制委は、国と東電が適正な処分を行っているのかを厳しく監視すべきである。規制当局の立場から、処理水や計画の審査結果について国民に分かりやすく伝えることも求められる。

 国や東電は、関係者の理解を得られない限り放出は行わないと表明している。しかし、県漁連などは放出に反対している。県は放出に賛否を述べる予定はない。国内外の反応も無関心と強硬な反対が大半を占めており、理解醸成が図られているとは言えない。このようななかで、国と東電はどのような段取りで放出を始めるのかが見えない。理解をどこまで得れば放出するのか、意思決定の道筋を早急に示す必要がある。

 計画了承の可否を除けば、海洋放出の決定の判断に地元が意見を述べる機会は制度上設けられていない。しかし、現段階で放出を容認できる状況にないことは明白だ。国、東電は認可を受けて一層厳しい立場に置かれたことを心得なければならない。