(社説)ロシアのウクライナ侵攻 秩序と民主を侵す暴挙だ
                                   2022年2月25日 朝日新聞

 ロシアが隣国ウクライナへの軍事侵攻に踏み切った。
 この8年間紛争が続いていた東部地域だけでなく、首都付近も爆撃された。各地で軍部隊の侵入が伝えられている。
 国の主権を侵す明白な侵略である。第2次大戦後の世界秩序を根底から揺るがす蛮行であり、断じて容認できない。

 ■明白な国際法違反
 ロシアは国連安全保障理事会の常任理事国であり、世界最大級の核武装国でもある。その大国が公然と国際法を犯した影響は甚大だ。
 欧州にとどまらず、国際社会全体の規範と価値観への挑戦とみるべき局面だ。各国は結束して行動するとともに、ウクライナを支援する必要がある。
 攻撃にさらされる罪なき市民を思うと、悲しみに堪えない。流血を抑えるためにも、日本を含む国際社会は紛争を止める対応措置を急ぐべきだ。
 第2次大戦は1939年、ナチスドイツがポーランドを侵攻して始まった。域内の「ドイツ人の保護」が理由の一つとされたが、今回も共通点がある。
 ウクライナ国内のロシア人を守るために「非武装化」をすると、プーチン大統領は演説した。だが、真の狙いは親米欧の政権つぶしにほかならない。
 欧州大陸において今回は、ナチスによる侵攻以来となる大規模な侵略だ。プーチン氏の時代錯誤の演説は、大戦の悲劇を経て築かれた歴史と国連憲章がうたう秩序を無視している。
 ウクライナはロシアが作り上げたもので我々の一部だ、という尊大な主張は、国際法で認められる余地はない。国の大小問わず主権国家は平等な権利を持つのが戦後の基本原則だ。
 第2次大戦の戦勝国として常任理事国を務めるロシアは本来、こうした原則を守る立場にある。だが今回の行動で、責任を自ら放棄してしまった。

 ■独裁が生んだ暴走
 自分たちが米欧から受ける不当な脅威を減じるには、一方的な軍事行動も許される――そんな特権意識をプーチン氏が抱いた背景には、ロシアの政治状況も作用している。
 政権に異を唱える勢力は国会から締め出され、ジャーナリストや活動家らが暗殺され、襲われる。司法も政治的な案件では政権の支配下にある。
 三権分立の体制をとってはいても、20年以上権力を握るプーチン氏のもとで独裁ができあがった。今回もロシア国民の多くは戦争を望んでいないとされるが、暴走を止められない。
 プーチン氏がウクライナの米欧接近を嫌ったのも、西側の民主主義が流入すれば、ロシアでの自らの支配体制を揺るがしかねない危機感があったからだ、との見方も根強い。
 その意味で、今回の侵攻が踏みにじったのは隣国の主権とともに、世界の自由と民主主義でもある。強権型の政治が広がる現代世界の危うさが露呈した事例としても、見過ごせない。
 バイデン米大統領は経済制裁を表明したが、どこまでロシアを抑制できるかは不透明だ。この侵攻は結果として、秩序の守り手としての米国の力が衰えたことを改めて印象づけた。
 国際安全保障をめぐる枠組みは過渡期の様相を深めている。冷戦が旧ソ連の解体で終わった30年前の一時期、米国の一極支配と呼ばれた頃があった。
 そのポスト冷戦期も、イラク戦争やリーマン・ショックを経て米国が内向き志向に転じた。世界は警察官のいない無極化世界ともいわれる。
 ロシアと同様に、中国も歴史的な被害意識を背景に、既存の国際秩序に挑みかねない危うい段階にある。実際は両国ともに経済のグローバル化の恩恵を受けて成長してきたが、その互恵システムそのものの価値を顧みない行動が目立ってきた。

 ■安保再建へ協働を
 どの国であれ、自国第一主義の逸脱行動を取れば、勝者はいないのが現実だ。国際社会全体の持続可能な発展のためにも、ロシアに理性を取り戻させる働きかけが必要だろう。
 この侵攻を受け、国際社会が厳しい経済制裁を科すのは当然だ。市民の悲劇を最小限にするため、北大西洋条約機構(NATO)による緊急対応も整えねばなるまい。
 同時に、ロシアを説得する外交努力を途絶えさせるのは得策ではない。短期的な停戦交渉に加え、中長期の軍備管理交渉も視野に入れて、新たな安保構造の創出を探るべきだ。
 日本には、アジア太平洋地域においても法の支配などの国際原則をまもる責務がある。中国が一方的な現状変更に動けば自らと地域の利益をどれほど傷つけるかを示すためにも、今回のロシアに対し決然たる態度で臨まねばならない。
 列強国が力で覇を競う旧時代に戻ってはならない。もはや特定の大国に頼れない今、力ではなくルールで律される国際秩序の構築をめざし、各国が協働するときだ。今回の侵攻への緊急対応は、その一歩である。

 (社説)露がウクライナ攻撃 侵略行為を強く非難する
                                 2022年2月25日 毎日新聞

 ロシアがウクライナに軍事侵攻した。
 国際社会の警告に耳を貸さず、国際法を踏みにじった。言語道断の侵略行為である。即座に攻撃を停止すべきだ。
 ウクライナ各地の軍事施設をミサイル攻撃した。首都キエフ近郊の飛行場を空爆し、爆発音が響いた。ロシア国防省はウクライナ軍の防空システムを無力化したと発表した。ロシア軍による攻撃は南部や東部の複数の主要都市にも及んだという。
 ウクライナ政府は、複数の都市を標的とする「全面的な攻撃だ」と非難した。多くの死傷者が出ているという。
 国際社会は、ロシアの不当な侵攻に断固として抗議すべきだ。ウクライナ市民の安全を守るために連帯を示す必要がある。

軍事行動の即時停止を

 プーチン露大統領は、親露派武装勢力が支配する地域の「保護」が目的であり、軍事作戦には「ウクライナの占領は含まれていない」と述べた。親露派が実効支配するドンバス地方を完全に奪取する狙いとみられる。
 ウクライナの政府機関や議会のウェブサイトが停止した。軍事侵攻と同時に大規模なサイバー攻撃が実行された可能性が大きい。
 ロシアは、親露派地域の要請に基づく軍事作戦と主張しており、ロシア軍を駐留させ、新たな侵攻を開始する恐れもある。
 バイデン米大統領は「プーチン氏は、計画された戦争を選んだ。死と破壊の責任はロシアのみにある」と非難した。
 軍事行動に対して、国際社会は毅然(きぜん)とした姿勢で臨まなければならない。
 ロシアによる親露派地域の独立承認を受けて、米欧日はロシアの金融機関やエネルギー事業などに対する経済制裁を発動した。
 プーチン氏はそれを気にも留めず、全面的な攻撃に踏み切った。対抗するには、より厳しい制裁措置が必要だ。
 主要7カ国(G7)は大規模な制裁を検討している。ロシアが報復として天然ガスなどの資源の輸出を制限することも想定しなければならない。
 侵攻を機にエネルギー価格が急騰している。G7は安定供給の確保に向け、産油国などと協力して対応策の調整を急ぐべきだ。
 ロシアとの関係の濃淡は国によって異なるが、足並みをそろえなければプーチン氏の行動を変えることはできない。
 国際社会が認識すべきなのは、世界にとって共通の脅威であるということだ。大国による露骨な暴力行為を制御できなければ、世界はどうなるのだろうか。
 ウクライナだけの問題ではない。東西冷戦終結後、平和的に構築されてきた欧州の秩序に対するプーチン氏の挑戦でもある。

国際社会が結束示す時

 北大西洋条約機構(NATO)の勢力圏を、東方拡大が始まる前の1997年の状態に戻すよう求め、米欧に拒否されると軍事手段に訴えた。
 米欧がウクライナ問題にきちんと対処できなければ、ロシアの増長を招き、さらなる勢力圏の拡大に動く恐れも否定できない。
 NATOに加盟する東欧やバルト3国ではロシア脅威論が高まっている。防衛体制を一段と強化することが求められる。
 法とルールに依拠する国際秩序も危機に直面する。武力によって勢力を拡大しようとする風潮が広がると、民主主義は脆弱(ぜいじゃく)になる。
 冷戦後に米国が主導してきた秩序は崩れ落ち、世界は平和と安定を維持する装置を失って混迷の時代に突入するだろう。
 ロシア国民にも問いたい。プーチン氏は、大国ロシアが米欧によって解体されたとみなし、「歴史的なロシアの統一」を訴える。
 だが、旧ソ連圏諸国を自国の勢力圏と主張し、力ずくでねじ伏せようとするのは、独善的な覇権主義以外の何ものでもない。
 ロシアが悠久の歴史を持ち、偉大な文化を育んできたことは、だれもが認めるところだ。資源に恵まれ、世界に貢献できる国だ。
 にもかかわらず、プーチン氏の暴挙の結果、ロシアの主要産業に対する厳しい制裁が発動されれば、代償を払わされるのはロシア国民である。
 国際社会の結束が今ほど求められている時はない。世界秩序の将来は、ウクライナ危機への対応にかかっている。

 (社説)ウクライナ侵略 ロシアに暴挙の代償払わせよ
                                   2022年2月25日 読売新聞

 ◆国連憲章踏みにじる重大な挑戦◆
 ロシアがウクライナに対する軍事攻撃を開始した。他国の主権と領土を踏みにじる明らかな侵略である。国際法に違反する暴挙だ。
 国連憲章でうたわれた、主権と領土の尊重や紛争の平和的解決の原則を根底から覆し、第2次世界大戦後の国際秩序を破壊するものだ。国際社会はロシアに断固たる制裁を加え、重い代償を払わせねばならない。

 ◆プーチン氏の身勝手
 プーチン露大統領は、ウクライナ東部の親露派住民を保護すると称し、ロシア軍に軍事作戦の開始を指示した。ウクライナの非武装化を追求する考えも強調した。
 露国防省は、ウクライナ軍の施設や飛行場を無力化するための攻撃を行う方針を示したという。
 ウクライナの首都キエフや東部の主要都市の政府軍施設をミサイルで攻撃し、黒海に面する南部オデッサも攻撃を受けたと伝えられる。政府機関に対するサイバー攻撃も確認されている。
 ロシア軍が昨年末以降、ウクライナ周辺に部隊を集結、増強させてきた経緯を踏まえれば、プーチン氏はすでに侵攻する決意を固めていたのだろう。
 ロシアは米国に対し、米欧同盟の北大西洋条約機構(NATO)にウクライナを加入させないことの確約を求めてきた。だが、交渉をまとめる意図など最初からなく、侵攻を正当化する口実を作りたかっただけではないか。
 ロシアは2014年にもウクライナのクリミア半島を軍事的圧力を使って併合している。旧ソ連構成国のウクライナが、親欧米に傾いたことがきっかけだった。
 プーチン氏は、ロシアとウクライナの歴史的、文化的な一体性を強調してきたが、ウクライナはクリミア併合に反発して、ロシアからますます離れている。19年には親欧米志向の政権が発足した。
 こうした動きに歯止めをかけ、ウクライナを力ずくでロシアの勢力下に置くことが、プーチン氏の本音であることは間違いない。
 軍事作戦の真の目的も、ロシア軍の活動範囲を拡大しながらウクライナ軍を弱体化させ、現政権を退陣に追い込むことだろう。東部住民の保護は口実にすぎず、軍事行動の正当性はどこにもない。
 侵略が続けば、ウクライナ軍との衝突は避けられない。住民を含め、双方に多数の死傷者が出ることになる。非人道的なプーチン氏の決定に改めて憤りを覚える。
 国連憲章は、国家の領土保全と政治的独立を定め、領土問題を巡る武力行使や軍事的な威嚇を禁じている。ロシアは、世界の平和と安全により重い責任を持つ国連安全保障理事会常任理事国であるにもかかわらず、これを破った。

 ◆安保理の存在問われる
 国連発足以来、米英仏中露の安保理常任理事国には、1か国でも反対すれば決議案を葬ることができる拒否権が与えられている。ロシアはこれを基に非難決議を回避しようとするなど、安保理が機能不全に陥っている。
 ソ連崩壊後のNATO拡大を一方的に非難し、世界の安全保障秩序をロシアに都合の良い形で改編しようとするプーチン氏の試みは、戦後の国連システムの成果を否定するものである。
 そもそも、同盟の選択や変更は各国が主権を行使し、自由意思で決める問題だ。NATO拡大は、東欧や旧ソ連の新規加盟国が民主主義や法の支配に共鳴し、自国の安全保障を強化しようとした結果、実現した経緯がある。
 ロシアの暴挙は、戦後秩序への挑戦にほかならない。「国連中心主義」を外交の基本軸の一つとして掲げてきた日本は、国連総会の場などで、こうした主張を先頭に立って展開すべきだ。

 ◆実効性のある制裁を
 バイデン米大統領は「世界はロシアの責任を追及していく」と述べ、「同盟国とともに断固とした措置をとる」と強調した。
 クリミア併合の際は、日米欧ともに効果的な対露制裁を科すことができなかった。この教訓を踏まえ、今回は先進7か国(G7)が足並みを 揃 えて実効性のある制裁を打ち出すことが重要である。
 米国は、ロシアの銀行などをドル決済から締め出す金融制裁の強化や、ロシアへの先端技術輸出の規制を検討している。ドイツは、ロシアとの新たなパイプラインの稼働停止を決めた。日本も 毅然 とした態度を示さねばならない。
 ウクライナがロシアの威嚇に屈することがないよう、日米欧の支援が不可欠となる。露軍の撤収なしでは、対露交渉は見込めない。撤収への圧力を強化すべきだ。

 (社説)ウクライナ侵攻 ロシアの無法を許さぬ
                                  2022年2月25日 東京新聞

 国際秩序を破壊する暴挙を許すわけにはいかない。ロシアがウクライナへの軍事攻撃を開始した。国際社会は結束してロシアに立ち向かう必要がある。
 プーチン大統領はウクライナ占領は計画していないと言うが、戦火が拡大して多くの人命が失われる事態が憂慮される。ロシアは侵攻を即刻やめなくてはならない。
 ウクライナ国境地帯に20万人近いといわれる大軍を展開した砲艦外交が功を奏さなかったとみると、実際に武力に訴える
 まるで弱肉強食の帝国主義時代に戻ったかのようだ。国連憲章は武力による威嚇やその行使を禁じている。代償は計り知れないことをロシアに思い知らせないと、まねする国が現れて、世界の平和と安定が保てなくなる。
 気掛かりなのは中国の動向だ。米国がウクライナに派兵する意思がないのを見て台湾侵攻に動くのではないか、という観測がしきりだ。中国には自重を望む。

◆国際社会は結束を図れ
 2014年のクリミア併合に続くロシアの侵略行為に、西側は前例のない厳しい経済制裁を発動するつもりだ。クリミア併合の際、日本政府は北方領土交渉を気にして対ロ制裁に及び腰だった。今回は自由主義陣営の一員として足並みをそろえないと国際的な信頼を失う。
 ウクライナ危機以来、石油、天然ガス価格はうなぎ上りだが、一層の高騰は避けられない。世界がコロナ禍からの経済回復を目指す中での逆風だ。エネルギー価格は国民生活への影響が大きい。日本政府は国民生活の防衛に目を配る必要がある。
 プーチン氏は欧米との交渉で、バルト諸国まで広がった北大西洋条約機構(NATO)を、これ以上東方に拡大しないよう要求した。ウクライナやジョージア(旧グルジア)が悲願とするNATO加盟が現実になれば、安全保障上の脅威になると見なすからだ。
 だが、NATO諸国がロシアとの軍事紛争に巻き込まれるのを懸念して、ウクライナやジョージアの加盟を認める可能性がないことはプーチン氏も分かっているはずだ。米ロの専門家の間では、加盟にモラトリアム(猶予期間)を設けたり、ウクライナの中立化といった妥協案が挙がっていた。
 プーチン氏は冷戦終結とソ連崩壊に伴って出来上がった欧州の勢力図を塗り替えて、失地回復を図ろうとしている。欧州安全保障の再編である。交渉で欧米と折り合えば、欧州の安定につながっただろう。それが相互不信を克服できないまま最悪の事態を迎えたのは残念である。
 ウクライナの行方はロシアにとって安全保障の問題だけではない。ウクライナの首都キエフは、10~12世紀に大国として栄えたキエフ・ルーシ公国の首都だった。この公国がロシア、ウクライナ、ベラルーシの東スラブ系3国の礎となった。
 プーチン氏にすれば、ロシア発祥の地のウクライナが欧州になびくことは許容できないのだろう。ウクライナとロシアは一体と考えているからだ。

◆大国の狭間の分断国家
 そもそもプーチン氏の言動からは、ウクライナをはじめ旧ソ連諸国を主権国家とは認めていないことがうかがえる。旧ソ連圏はロシアの勢力圏であり、西側は手を出すな、と。だが、他国を自分の属国扱いする独り善がりは認められない。
 ウクライナの西部はカトリックのポーランドとの関係が深いのに対し、東部は正教のロシアとのつながりが強い。こうした宗教、文明の断層が走るウクライナは、影響力を競い合う米ロ角逐の最前線でもある。
 両大国の狭間(はざま)でウクライナはもみくちゃにされた。欧州とロシアのどちらを選ぶのか、とウクライナ国民に選択を強いる米ロによって分断は極まった。悲劇である。
 ただ、ロシアの蛮行をウクライナ人は忘れまい。ロシアがウクライナを支配したとしても、もはやウクライナの民心を失っている。
 それだけではない。フィンランドやスウェーデンでもNATO加盟論が台頭している。冷戦時代にソ連の桎梏(しっこく)に苦しんだ東欧諸国がNATOの庇護(ひご)を求めて加盟に走ったのも、ロシアへの恐怖心からだった。

 プーチン氏はロシアの安全保障環境を損ねているのは自分自身であることを悟るべきだ。

 (主張)ロシア軍の侵攻 冷戦後最大の秩序破壊だ厳しい制裁を即座に断行せよ
                               2022年2月25日 産経新聞

 東西冷戦終結後の世界秩序を破壊する歴史的な暴挙である。ロシアのプーチン大統領は、隣国ウクライナに対する軍事攻撃に踏み切った。1991年12月のソ連崩壊によって独立した、れっきとした主権国家への明白な侵略である。断じて許すことはできない。
 ウクライナはロシアと断交し、あくまで祖国を守り抜く姿勢を示した。非道な侵略者に抵抗するウクライナ国民に世界は連帯しなければならない。
 日米欧をはじめとする西側の自由・民主主義陣営と、侵略国家ロシアとの対立は決定的になった。極めて強い対露制裁を速やかに発動し、プーチン政権を懲罰して軍事・政治的野望の達成を阻む必要がある。

ウクライナとの連帯を
 英国はプーチン氏の「金庫番」などへの金融・経済制裁を明らかにした。ドイツもロシアからの天然ガスの海底パイプライン「ノルドストリーム2」を稼働させないと表明した。
 形だけの経済制裁を発表していた日本だが、岸田文雄首相は24日の参院予算委員会で、「さらなる措置を取るべく速やかに取り組んでいく」と語った。毅然(きぜん)として実行してほしい。
 ロシアは21日、親露派武装勢力が支配する東部の「ドネツク人民共和国」「ルガンスク人民共和国」の「独立」を承認した。
 この2地域を守ると称してロシア軍はウクライナの首都キエフやハリコフなど各地の軍施設や空港をミサイルなど精密誘導兵器で攻撃し、「防空網を制圧した」と発表した。8年前に併合したクリミア半島からも進軍している。
 バイデン米大統領は声明で「プーチン氏は破滅的な人命の損失をもたらす戦争を選んだ。米国は同盟・友好国と結束して断固対処する。世界はロシアの責任を追及する」と表明した。ウクライナのゼレンスキー大統領との電話会談でも、「理不尽で不当な攻撃だ」とロシアを強く非難した。
 プーチン政権は「ウクライナ政府に虐げられた人々を保護するためで、非軍事化による自衛が目的だ」としているが、これほどのウソは聞いたことがない。到底受け入れ難い自己正当化である。
 侵攻前の情報戦が熾烈(しれつ)化する中でロシア側は、「東部で親露派住民がジェノサイド(集団殺害)を受けた」との根拠のない情報も流している。
 プーチン氏は昨年7月、自らの論文で「ロシア人とウクライナ人は一つの民族であり、ロシアあってのウクライナの主権だ」と主張した。
 侵攻前の国民向け演説でも「ウクライナはわれわれの歴史、文化、精神と不可分だ」と強調した。仮に両民族のルーツが同じであっても、力ずくで独立主権国家を攻撃し、その領土を強奪してよい理由にはならない。

時代錯誤が目にあまる
 プーチン氏は「北大西洋条約機構(NATO)は拡大しない、との約束を西側は破った」と繰り返すが、これは虚偽にまみれたプロパガンダ(政治宣伝)だ。このような強弁を裏付ける公式文書はどこにもない。「ウクライナがNATOに加盟すればロシアは攻撃される」とも発言したが、プーチン氏の妄想にすぎないといえる。
「ソ連崩壊は20世紀最大の地政学的大惨事だ」と嘆くプーチン氏は2008年、ソ連崩壊で独立したジョージア(グルジア)の2つの親露派地域を軍事力を背景に「独立」させ、国家承認した。今回と同様の手口である。
 プーチン氏のウクライナ侵略は、東部地域における紛争の包括的停戦を謳(うた)った2015年のミンスク合意と国連憲章、さらにウクライナがソ連時代からの核兵器を放棄してロシアに移管する見返りに領土保全や主権を保障された1994年のブダペスト覚書の全てを蹂躙(じゅうりん)した。
 かつてソ連の衛星国だった東欧諸国やソ連構成国だったバルト三国が、ロシアの脅威から自国を守るためNATOに加盟したのは当然の選択だ。
 ソ連時代の版図に郷愁を抱くプーチン氏は、ソ連を構成していた残りの国家をロシア勢力圏に取り込もうとしている。
 このような帝国主義的野望に固執すればウクライナ国民はもとよりロシア国民も苦境に引きずり込むだけである。プーチン氏は直ちに兵を引くべきだ。