●(社説)ウクライナ侵攻 ロシアの無法を許さぬ
2022年2月25日 東京新聞
国際秩序を破壊する暴挙を許すわけにはいかない。ロシアがウクライナへの軍事攻撃を開始した。国際社会は結束してロシアに立ち向かう必要がある。
プーチン大統領はウクライナ占領は計画していないと言うが、戦火が拡大して多くの人命が失われる事態が憂慮される。ロシアは侵攻を即刻やめなくてはならない。
ウクライナ国境地帯に20万人近いといわれる大軍を展開した砲艦外交が功を奏さなかったとみると、実際に武力に訴える−。
まるで弱肉強食の帝国主義時代に戻ったかのようだ。国連憲章は武力による威嚇やその行使を禁じている。代償は計り知れないことをロシアに思い知らせないと、まねする国が現れて、世界の平和と安定が保てなくなる。
気掛かりなのは中国の動向だ。米国がウクライナに派兵する意思がないのを見て台湾侵攻に動くのではないか、という観測がしきりだ。中国には自重を望む。
◆国際社会は結束を図れ
2014年のクリミア併合に続くロシアの侵略行為に、西側は前例のない厳しい経済制裁を発動するつもりだ。クリミア併合の際、日本政府は北方領土交渉を気にして対ロ制裁に及び腰だった。今回は自由主義陣営の一員として足並みをそろえないと国際的な信頼を失う。
ウクライナ危機以来、石油、天然ガス価格はうなぎ上りだが、一層の高騰は避けられない。世界がコロナ禍からの経済回復を目指す中での逆風だ。エネルギー価格は国民生活への影響が大きい。日本政府は国民生活の防衛に目を配る必要がある。
プーチン氏は欧米との交渉で、バルト諸国まで広がった北大西洋条約機構(NATO)を、これ以上東方に拡大しないよう要求した。ウクライナやジョージア(旧グルジア)が悲願とするNATO加盟が現実になれば、安全保障上の脅威になると見なすからだ。
だが、NATO諸国がロシアとの軍事紛争に巻き込まれるのを懸念して、ウクライナやジョージアの加盟を認める可能性がないことはプーチン氏も分かっているはずだ。米ロの専門家の間では、加盟にモラトリアム(猶予期間)を設けたり、ウクライナの中立化といった妥協案が挙がっていた。
プーチン氏は冷戦終結とソ連崩壊に伴って出来上がった欧州の勢力図を塗り替えて、失地回復を図ろうとしている。欧州安全保障の再編である。交渉で欧米と折り合えば、欧州の安定につながっただろう。それが相互不信を克服できないまま最悪の事態を迎えたのは残念である。
ウクライナの行方はロシアにとって安全保障の問題だけではない。ウクライナの首都キエフは、10~12世紀に大国として栄えたキエフ・ルーシ公国の首都だった。この公国がロシア、ウクライナ、ベラルーシの東スラブ系3国の礎となった。
プーチン氏にすれば、ロシア発祥の地のウクライナが欧州になびくことは許容できないのだろう。ウクライナとロシアは一体と考えているからだ。
◆大国の狭間の分断国家
そもそもプーチン氏の言動からは、ウクライナをはじめ旧ソ連諸国を主権国家とは認めていないことがうかがえる。旧ソ連圏はロシアの勢力圏であり、西側は手を出すな、と。だが、他国を自分の属国扱いする独り善がりは認められない。
ウクライナの西部はカトリックのポーランドとの関係が深いのに対し、東部は正教のロシアとのつながりが強い。こうした宗教、文明の断層が走るウクライナは、影響力を競い合う米ロ角逐の最前線でもある。
両大国の狭間(はざま)でウクライナはもみくちゃにされた。欧州とロシアのどちらを選ぶのか、とウクライナ国民に選択を強いる米ロによって分断は極まった。悲劇である。
ただ、ロシアの蛮行をウクライナ人は忘れまい。ロシアがウクライナを支配したとしても、もはやウクライナの民心を失っている。
それだけではない。フィンランドやスウェーデンでもNATO加盟論が台頭している。冷戦時代にソ連の桎梏(しっこく)に苦しんだ東欧諸国がNATOの庇護(ひご)を求めて加盟に走ったのも、ロシアへの恐怖心からだった。
プーチン氏はロシアの安全保障環境を損ねているのは自分自身であることを悟るべきだ。
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