(社説)「桜」不起訴不当 不信を拭う再捜査を
                                 東京新聞  2021年7月31日

 「桜を見る会」を巡り、安倍晋三前首相に対する検察審査会の判断は「不起訴不当」だった。元秘書だけを略式起訴したことへの不信感の表れとも解される。検察は再捜査に尽力すべきだ。
 検審制度は公訴権を握る検察の不起訴の判断に対し、民意を反映させて適正化を図る趣旨である。「桜を見る会」問題での安倍氏に対する検審判断は「不起訴不当」で、強制起訴になり得る「起訴相当」ではなかった。
 だが、検察当局が出した不起訴処分に「不当」という厳しい言葉で迫る結果となった。検察は改めて検審の判断を考慮し、再捜査に動きだす。検察はまずこの民意の重さをかみしめるべきである。
 事件の舞台は「桜を見る会」前日にあった夕食会である。安倍氏の後援会主催で毎年、地元支援者らを都内のホテルに招き、一人5000円の会費で開いていた。
 「会費だけでは不足するのではないか」との追及に、安倍氏は国会で「補填(ほてん)はしていない」「明細書もない」との答弁を百回余りも重ねた。だが、実際には会費だけでは足りず、安倍氏側が補填し、その金額は5年間だけでも計約900万円に上っていた。
 検審が問題視したのは、この補填が選挙区内での寄付に当たり、公職選挙法に反する疑いと、もう一点が政治資金規正法違反の疑いだ。同法には会計責任者の選任・監督責任を問う規定がある。安倍氏が代表を務める資金管理団体「晋和会」の会計責任者の選任・監督を怠った疑いも持たれた。
 検審で審査員を務める市民が疑念を持って当然のことである。元公設第1秘書は略式起訴により100万円の罰金だったが、安倍氏は不起訴。それを決めた検察は家宅捜索すらしなかった。
 安倍氏への事情聴取でも「関与していない」との言い分を聞いただけと伝えられた。不信の念が募る捜査の幕引きだった。
 「桜を見る会」問題の核心は、本来なら招かれないはずの支援者たちを特別に招いた「権力の私物化」にある。その当事者である安倍氏自身は、不正の存在を本当に知らなかったのだろうか。
 「政治家はもとより総理大臣であった者が、秘書がやったことだと言って関知しないという姿勢は国民感情として納得できない」。議決書にある一文は、多くの国民が突き付ける怒りでもある。

 (社説)安倍氏の不起訴「不当」 捜査徹底が検察の責任だ
                                   毎日新聞 2021年7月31日

 「桜を見る会」前夜祭の費用を巡る問題で、安倍晋三前首相が不起訴とされたことについて、検察審査会が「不当」と議決した。
 東京地検特捜部は、前夜祭の収支を政治資金収支報告書に記載しなかった罪で秘書を略式起訴し、捜査を終えた。安倍氏の関与を裏付ける証拠はないと判断した。
 これに対し、くじで選ばれた市民で構成する検察審査会は、「捜査が尽くされていない」と指摘した。疑念は払拭(ふっしょく)されていない。特捜部は捜査を徹底し、真相を解明しなければならない。
 前夜祭は安倍氏の後援会が主催し一昨年まで毎年行われた。桜を見る会に招待した支援者を集め、高級ホテルで開いた宴会だった。
 参加者の会費で賄えなかった費用は、一昨年までの4年間で約700万円に上り、安倍氏側が補塡(ほてん)していた。
 公職選挙法が禁じた有権者への寄付に当たる可能性がある。しかし、特捜部は参加者側に寄付を受けた認識がなかったと判断した。
 検察審査会は、一部の参加者に事情を聴いただけでは、結論を出すのに不十分だと指摘した。安倍氏の関与があったかどうかについても、関係者間のメールなどを入手した上で判断すべきだとした。
 特捜部は安倍氏に事情聴取したが、事務所の捜索など強制捜査はしていない。再捜査では、検察審査会の指摘に応える必要がある。
 安倍氏の説明責任も改めて問われる。
 補塡分は会場費などで寄付には当たらないと主張する。だが、野党からホテル発行の明細書を示すよう求められても応じていない。
 原資についても疑問が残る。私的な支払いのため事務所に預けた資金から、秘書が独断で支出したと説明しているが、不自然だ。
 収支報告書に記載してこなかった経緯も不明のままである。
 疑問が解消されていないにもかかわらず、安倍氏は昨年末に国会で釈明し「説明責任を果たせた」と強調した。それまで「虚偽答弁」を繰り返したことの重大さを自覚しているとは思えない。
 検察審査会は「首相だった者が、秘書がやったことだと言って関知しないという姿勢は国民感情として納得できない」と付言した。安倍氏は重く受け止めるべきだ。