(社説)ドイツの脱原発 国際的な輪を広げたい
                                               東京新聞 2021年4月9日

 東京電力福島第一原発事故から10年を機に、ドイツ政府は脱原発を完全に達成するための行動指針を公表した。自国の原発閉鎖後には世界での脱原発を目指す、野心的な目標として評価したい。
 当初、原発推進政策だったメルケル政権が二〇一一年、脱原発に転換したのは、福島での原発事故の惨状だった。当時、十七基あった原発も現在六基にまで減り、来年末までに全て閉鎖される。
 十二項目の指針は脱原発は来年末では終わらないと強調。一九八六年の旧ソ連チェルノブイリ原発事故を例に、事故は遠く離れた国々にも影響を及ぼすとし、安全の確保には欧州の隣国はもちろん、国際レベルで最大限の力を注ぐ必要性を指摘している。
 欧州連合(EU)の現状を見ると、フランスは電力の約七割を原発に依存し、東欧諸国も原発の新増設を検討するなど、脱原発では足並みがそろっていない。
 陸続きの欧州では国境を越えた電力取引も常態化している。ドイツは電力輸出超過だが、フランスなどから原発由来の電力を輸入しているのも、EUが電力供給の安定を図るために単一電力市場構想を推進し、域内の電力取引を盛んにしている事情がある。
 このため指針は、エネルギー政策を巡る各国の主権を尊重した上で、原発推進国に脱原発への協力を促す内容となっており、国際協力の具体的な第一歩として、原発を抱える周辺五カ国に、核の安全性について意見交換する委員会の設置を呼び掛けている。

 脱原発に逆風となっているのが温暖化対策だ。

 EUは二〇五〇年までに域内の温室効果ガス排出を実質ゼロにする目標を掲げている。目標達成のために原発の活用を表明している加盟国もある。菅義偉首相が同様の目標を打ち出した日本政府も、原発の活用をうたっている。
 ドイツは指針で原発による温暖化対策に反対し、再生可能エネルギーの活用を訴える。原発は常にリスクを伴う上に、核廃棄物の最終処分場問題はいまだ解決せず、将来世代に負担を残すという理由だ。次世代型原発「小型モジュール炉」についても、核のリスクは残るとして「将来への誤った道」だと指摘している。
 原発で事故が起きれば、被害が極めて広範囲に広がることは、チェルノブイリや福島の事故で経験済みだ。脱原発は急務である。国際協力を主導しようというドイツの挑戦を後押ししたい。