(社説)普天間合意25年 負担軽減の原点に戻れ
                                            朝日新聞 2021年4月10日

 四半世紀たっても果たされない「約束」とは何なのか。日米両政府はこれ以上、展望のない現行計画に固執することをやめ、合意の原点に立ち戻って、真剣に打開策を検討すべきだ。
 住宅地の真ん中にあり、「世界一危険」ともいわれる沖縄県の米軍普天間飛行場の全面返還を日米両政府が発表してから、12日で25年となる。
 米兵による少女暴行事件を契機に、米軍基地の集中に苦しむ沖縄の人々が怒りと抗議の声をあげ、本土復帰以降最大規模となる県民大会も開かれた。日米安保体制を揺るがす事態に危機感を抱いた両国の当局者が、負担軽減の象徴としてまとめたのが普天間の返還合意だった。
 当時、「5~7年以内」とされた返還がいまだ実現していないのは、抑止力を維持するためとして、県内に代替施設をつくることが条件だったからだ。
 日本側が期待した嘉手納基地への統合案は早々についえ、名護市沖の海上ヘリポート案を経て、最終的に決まったのが辺野古沖を埋め立ててV字滑走路をつくる今の計画である。しかし、軟弱地盤の発覚で工期も延び工費もかさむことから、もくろみ通りにいっても返還は早くて2030年代半ばとされる。
 米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)も、「完成する可能性は低い」とする報告書を公表している。もはや新基地にこだわらず、軍事技術の進展や安全保障環境の変化に応じた戦略の見直しを通じ、海兵隊の分散など、実現可能性の高い方策を探るべきではないか。
 この間、この難題に向き合った首相は11人になる。合意をまとめた故橋本龍太郎氏や、沖縄でのサミット開催を決めた故小渕恵三氏ら、沖縄の苦難の歴史に思いをはせ、対話に心を砕いた首相もいた。しかし、第2次安倍政権以降の8年余は、知事選や県民投票で繰り返し示された辺野古ノーの民意を顧みることなく、問答無用のごり押しが続く。官房長官、首相として、一貫して意思決定の中枢にいた菅首相の責任は極めて重い。
 その菅氏は来週、訪米してバイデン米大統領と初の対面での首脳会談に臨む。軍事的、経済的に台頭する中国に向け、日米同盟のさらなる強化をアピールする考えだ。
 ならば一層、米軍基地を抱える地域住民の理解は必須である。普天間の危険性を除去し、沖縄の負担を軽減する。25年前の合意の原点を、首脳同士で確認するところから再出発してほしい。バイデン政権は、中国の権威主義に対し、民主主義の価値を前面に掲げる。民意を無視した辺野古強行で民主主義の価値をおとしめてはいけない。

 
(社説)普天間返還合意25年 即時閉鎖こそ負担軽減だ
                                               琉球新報 2021年4月11日

 米軍普天間飛行場の全面返還に日米が合意してから、あすで25年となる。ついに四半世紀に至ったが、いまだ返還の見通しが立たず「世界一危険」とされる飛行場が街のど真ん中に居座り続けている。
 根本的原因は、日米が県内移設に固執していることにある。移設先の名護市辺野古は大浦湾側に軟弱地盤が見つかり、工事の長期化は必至だ。政府試算で少なくとも12年かかり、完成は2030年代になるという。国は地盤改良工事に向け設計変更を県に申請中だが、県は承認しない構えで先は見通せない。
 その間、普天間周辺住民は米軍機の墜落や落下物による命の危険、米軍由来の環境汚染、航空機騒音などの被害にさらされ続ける。この深刻な状態を最短で40年以上も放置するのは無責任極まりない。飛行場を即時閉鎖し、無条件で返還することこそが県民にとっての負担軽減だ。
 発端は人権問題だ。1995年に米兵による少女乱暴事件が起き、超党派県民大会など県民の怒りが日米政府を突き動かし、翌年合意に至った。だが県民が沸いたのはつかの間だった。県内移設条件付きであることが判明、今日に及ぶ混迷が始まった。辺野古移設に反対する県と国の対立はいまだ出口が見えない。

 「辺野古が唯一の選択肢」とする日米政府の方針には大きな問題が主に二つある。

 一つは、辺野古の新基地は普天間飛行場より機能が強化されることだ。強襲揚陸艦が着岸できる岸壁を整備し、弾薬庫も整備される。政府は「抑止力を維持しながら沖縄の負担軽減を図る」と繰り返す。
 しかし実際は、県民の命や人権、財産よりも抑止力を優先させていると言わざるを得ない。米海兵隊と陸自が共同使用する案も浮上した。機能強化により、有事の際に標的にされる可能性が高まるなど、危険性への県民負担はむしろ増す一方だ。
 もう一つは、沖縄の民意無視だ。県知事選をはじめ国政選挙など県内の主な選挙で新基地建設に反対する候補が当選し、有権者は反対の意思を示してきた。極め付きは辺野古埋め立ての是非を問う県民投票だ。投票者の約7割が反対票を投じた。日米が民主主義国家なら、これらの結果を無視できないはずだ。
 辺野古移設を疑問視する意見は米側にもある。米会計検査院は「沖縄のような地域での反対の程度を考えると、(新基地建設は)政治的に持続可能ではない」と指摘した。米シンクタンクの戦略国際問題研究所の報告書も「代替施設が完成する可能性は低そうだ」と困難視している。
 そもそも普天間飛行場は、沖縄戦で米軍が住民を収容所に閉じ込めている間に建設し、銃剣とブルドーザーで拡大した基地だ。戦時に敵国で私有財産没収を禁じたハーグ陸戦法に違反する。無条件で住民に土地を返すべきだ。固定化は絶対に許されない。


 (社説)普天間合意から25年 沖縄に寄り添ってきたか
                                             毎日新聞 2021年4月13日

 沖縄県宜野湾市にある米軍普天間飛行場の返還に日米両政府が合意してから25年を迎えた。
 合意は「5~7年以内の全面返還」をうたったが、今も実現していない。四半世紀前の約束を果たせていない責任を両政府は重く受け止めるべきだ。
 返還が実現しないのは、代わりの施設を県内に整備して移設することが条件になっているからだ。
 代替施設は当初、海上ヘリポートが想定されていた。だが、名護市辺野古沿岸部を大規模に埋め立てて、2本の滑走路や軍港の機能を備える今の計画へと膨らんだ。
 県民は知事選や国政選挙で辺野古移設への反対の意思を示してきた。2019年の県民投票でも、埋め立て反対は72%にも上った。
 しかし、安倍晋三前首相は県民投票の直前に埋め立て工事を始めた。民意を置き去りにし、既成事実化を進めた安倍前政権で、官房長官を務めたのが菅義偉首相だ。
 埋め立て予定海域には軟弱地盤が見つかり、設計変更が必要になった。移設時期は目標の22年度から「30年代」にずれ込み、工費も当初予定の2・7倍の約9300億円に膨れ上がるという。
 米シンクタンクの戦略国際問題研究所は報告書で「完成する見込みは薄い」と指摘している。
 そもそも合意の目的は、沖縄の基地負担軽減だった。
 当時の橋本龍太郎首相はその象徴として、市街地にあり「世界一危険」とされる普天間の返還を米国に求めた。在沖縄米兵による少女暴行事件で反基地感情が高まっていたことが背景にあった。
 かつての自民党には、沖縄の苦難の歴史や過重な負担に思いをはせ、その軽減に熱意を持って取り組んだ政治家がいた。だが、沖縄に寄り添い、問題解決に取り組む覚悟が、今はあるのだろうか。
 「最低でも県外移設」と言いながら、迷走の末に辺野古案に回帰した旧民主党政権の責任も重い。
 菅首相は今週訪米し、バイデン大統領と会談する。国会で表明してきた「沖縄の心に寄り添う」という姿勢を行動で表してほしい。
 見通しの立たない工事を漫然と続けることは許されない。普天間の危険性を取り除くという合意の原点に立ち返り、米国と向き合うべきだ。

 
 (主張)普天間合意25年 辺野古移設の実現を急げ
                                          産経新聞 2021年4月13日

 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の全面返還に日米両政府が合意してから25年がたった。
 移設先や工法をめぐる長期間の検討を経て、名護市辺野古の米海兵隊基地キャンプ・シュワブを移設先として、埋め立てによる滑走路を建設する現行計画が平成18年に固まった。それが今も完成していないのは極めて残念だ。
 市街地に囲まれた普天間飛行場の危険性は明らかである。だが玉城デニー知事は辺野古移設に反対している。普天間周辺に暮らす県民の安全のためにも、玉城氏は移設協力へと転じ、早期の返還実現を図ってもらいたい。
 玉城氏は会見で返還が実現しないのは「(政府が)県民の頭越しに、日米で合意した計画に固執している」からだと指摘した。
 思い出すべきは、普天間飛行場の返還に熱心に取り組んだのは、平成8年当時の橋本龍太郎首相だったという点である。その前年に起きた米兵による少女暴行事件を受け、自ら駐日米大使らとの交渉に臨み、8年4月、移設を条件とする返還合意にこぎつけた。
 政府は県、地元自治体との協議の場を設け、具体策を何度も検討し直した。民主党の鳩山由紀夫首相は21年に「県外移設」を掲げた。無責任な思い付きで、結局は断念して県民の政治不信を高め、日米関係を悪化させた。
 26年に辺野古反対の「オール沖縄」勢力が県政与党の座についた。玉城氏は政府と県との対話の場を求めるが、移設反対一辺倒では建設的な協議は難しい。
 返還合意時と比べ、日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増している点を忘れてはならない。
 世界第2の経済大国となった中国は軍拡を進め、沖縄の島である尖閣諸島(石垣市)を奪おうと狙っている。中国はまた、沖縄のすぐ隣に位置する自由と民主主義の台湾の併呑(へいどん)を狙っている。北朝鮮は3月、約1年ぶりに弾道ミサイルを発射した。
 沖縄など日本の平和を守るうえで、在沖米軍の抑止力の重要性は高まっている。今取り組むべきは、在沖米軍を含む日米同盟の抑止力を維持しつつ普天間の危険性を除去することだ。それには、辺野古移設が「唯一の解決策」であると、3月の日米の外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)が再確認した重みを踏まえなくてはならない。