(社説)中国6中全会 歴史を語る権力の礼賛
                               2021年11月12日 朝日新聞

 時の指導者の権威を高めるように歴史認識を改め、国民への浸透を進める。こんな内向きな大国では、外の世界との距離を広げるばかりではないか。
 中国共産党の最高指導機関とされる中央委員会が第6回全体会議(6中全会)を開き、今年で建党100年を迎えた党の歴史に関する決議を採択した。
 毛沢東とトウ小平の各時代に続き、40年ぶり3回目の「歴史決議」だという。
 全文はまだ公表されていないが、決議は共産党の完全な正しさを訴え、最高指導者としての習近平(シーチンピン)国家主席の功績をたたえる内容のようだ。
 過去の決議が党内の権力闘争や路線対立に決着をつける形で出されたのとは様相が異なる。習氏を毛やトウと並ぶ地位に引き上げ、新たな時代の幕開けを印象づけようとする演出にほかならない。
 言論統制の厳しい中国では、指導部が定める歴史観が教育などを通じて社会全体を覆っていく。歴史認識は本来、多様な見解と史実の検証を経て社会的に醸成されるべきものであり、時の指導部が自らに都合のいいよう自在に書き換える行為は独善というほかない。
 習氏は2018年に憲法を改正し、2期10年とされていた国家主席の任期制限をなくした。来年の党大会でトップの座を守り、強権体制の長期化を図る可能性が指摘されている。
 米中対立や経済成長の鈍化、少子高齢化、貧富の格差など、いまの中国は多くの課題に直面している。民主的な信任を経ない党政権の統治を安定的に保つには、権力の集中が必要だとの判断があるようだ。
 習氏への個人崇拝とも思える異様な礼賛をくり返す最近の国営メディアの報道を見ても、指導部の危機感がうかがえる。
 中国ではここ数年、党による歴史評価がすべてに優先される傾向も強まっていた。国際的な歴史の共同研究などが以前よりも難しくなっていると、海外の学者らが指摘している。
 中国が豊かになったのは対外開放を進め、自由主義世界との協力や協調を進めたからだ。それを忘れて自分だけの歴史観に閉じこもり、さらには排他的な対外強硬姿勢を強めるようなことがあってはならない。
 中国は一党支配ながらも、権力集中の弊害を避ける制度を選んできた。とりわけ甚大な破壊と犠牲を生んだ文化大革命の反省があったとされるが、いまの指導部はそうした教訓と先人の努力をどう考えているのか。
 ひたすら現体制の維持を図るための歴史観は、中国にとっても国際社会にとっても危ういことを認識すべきである。

 (主張)「歴史決議」採択 個人崇拝強化への道具か
                               2021年11月13日 産経新聞

 中国共産党の重要会議である第19期中央委員会第6回総会(6中総会)が習近平総書記(国家主席)の功績を称(たた)える「党の100年の奮闘の重大成果と歴史経験に関する決議」を採択した。
 習氏が来年後半の党大会を経て、総書記として異例の3期目に入るのが確実となった。
強権的な習体制のさらなる継続に、国際社会は警戒と監視を強化しなければならない。
 共産党100年の歴史の中で歴史決議は過去2回しかない。共産中国建国の父、毛沢東が1945年に、改革開放政策の生みの親である鄧小平が81年に、それぞれ主導してまとめた。今回、毛、鄧に比べて実績の乏しい習氏が歴史決議をまとめたことに違和感を抱く中国国民は少なくない。
 特に鄧がまとめた歴史決議は、毛が発動した文化大革命を否定したことで知られる。鄧は、毛の個人独裁を危険視し集団指導体制を確立した。
 だが、今回の歴史決議は党の政策の過ちを正すものではない。単に、習氏の権威をさらに高め、長期政権への異論を封じ込めるためのものだ。習氏による習氏のための歴史決議である。習氏が目指すのは、鄧が封印した個人崇拝の復活にほかならない。
 習氏は2012年の総書記就任後、何をしてきたのか。ウイグルをはじめとする少数民族の人権弾圧を進め、香港では自治に介入し「一国二制度」を崩壊させた。対外的には、中国公船による尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺への領海侵入を常態化させ、南シナ海では軍事基地を整備、台湾への軍事的な圧迫も強める一方だ。
 だが、習氏の過去の政策は今回の6中総会で、「党・国家の繁栄、発展、長期的安定を力強く保証した」「大国外交が全面的に推進された」「国際的影響力は著しく高まった」などと称賛された。習氏の強権統治や、相手を威嚇する「戦狼(せんろう)外交」が正当化されたことを意味する。
 林芳正外相は自身が務める日中友好議員連盟の会長職を辞任し、「主張すべきは毅然(きぜん)と主張し責任ある行動を求める」と語った。当然である。第2次岸田文雄政権は、米国と連携して対中包囲網の核とならなければならない。

 (社説)習氏と歴史決議 際限なき権威強化を懸念する
                               2021年11月13日 読売新聞

 中国共産党の習近平総書記(国家主席)が自らの権威付けと長期体制の確立のために、断行した要素が色濃い。行き過ぎた威信強化による弊害が懸念される。
 中国共産党が党の歴史を総括する決議を採択した。「歴史決議」は40年ぶりで今回が3度目だ。過去に決議を主導した指導者は、建国の父・毛沢東と改革・開放政策を推進したトウ小平しかいない。
 毛は1945年の決議で、党創設以来の「政治、軍事、思想の過ち」を追及し、党の方針を統一して独裁的地位を築いた。
 トウは81年の決議で、中国を混乱に陥れた毛の文化大革命を批判しつつ、毛について「功績が第一、誤りが第二」との見解を定めて指導体制を確立した。
 二つの決議は党内の権力闘争に区切りを付け、中国の針路を決定づけた。現在は習氏一極体制で、政治路線の対立は見られない。
 それでも習氏が決議を主導したのは、来年の党大会で「総書記2期10年で引退」という慣例を破り、3期目及びそれ以降の長期体制を確立する上で必要だと考えているからだろう。
 今回の決議に関する発表文は、習政権下で中国の国際的地位が向上し、国内の汚職摘発や貧困撲滅などの成果もあったと自賛している。党100年の歴史は、「毛時代」、「トウ・江沢民・胡錦濤時代」、「習時代」に区分された。
 トウを江氏、胡氏と並立させて時代を代表する第一人者ではなかったと印象付け、習氏こそが毛に並ぶ存在であることを誇示する狙いがあるといわれる。だが、毛の建国やトウの富国に匹敵する実績が習氏にあるかどうかは疑わしい。
 習氏の強国路線は、欧米との対立や貿易摩擦を招いている。国内統制をいくら強めても、経済の減速や貧富の格差は顕著で、国民の不満は収まっていない。
 際限のない権威強化は、独裁や個人崇拝と紙一重だ。習氏が判断を誤った場合、軌道修正は容易ではない。文化大革命の時代と違い、中国は大国化している。習氏は、世界に与える影響の大きさをより強く認識せねばならない。
 習氏が台湾統一を「歴史的実績」作りの材料に考えているなら、危険極まりない。日米は、台湾への軍事的威嚇が高まる可能性について警戒を強める必要がある。
 習氏は2年近く外遊を控え、気候変動などの国際会議も欠席している。内政優先の意図があるのだろうが、大国の首脳としての役割を果たすべきだ。

 (社説中国の歴史決議 習氏へ権限集中危うい
                               2021年11月13日 北海道新聞

 中国共産党の重要会議、第19期中央委員会第6回総会(6中総会)は、党の100年を総括する「歴史決議」を採択して閉幕した。
 会議の成果を要約したコミュニケによると、習近平氏が総書記に就任した2012年以降を「新時代」と位置づけ、多くの歴史的成果を上げたと称賛し、中台関係では主導権を握ったと評価した。
 過去に歴史決議の採択を主導したのは、建国の父、毛沢東と改革・開放政策を推進した鄧小平氏だけで、習氏は40年ぶり3人目だ。
 習氏は党史を総括する立場が認められたことになり、歴史的な党指導者として権威が高まった。
 来年秋の党大会で、2期10年の慣例を破って発足させる3期目政権への布石だとの見方が強い。
 これまでの決議は過去の政治路線を批判的に総括してきたが、今回のコミュニケには、1989年の天安門事件の記述もない。
 負の歴史に目をつぶり、権威付けだけに利用するのでは、内外の理解は得られないのではないか。
 歴史認識を示すのであれば、過去を謙虚に見つめ、より国民の側に立った視点が必要であろう。
 中国が抱える課題は山積する。
 農村と都市部の貧富の差は広がる。習氏が主導する格差縮小政策「共同富裕」は緒に就いたばかりで、不満解消には程遠い。
 新疆ウイグル自治区やチベットでは少数民族の「中国化」を進め、人権を無視した政策を強行していることは看過できない。
 香港では民主派を弾圧し「一国二制度」を事実上、崩壊させた。
 南・東シナ海では覇権主義的な行動を取り、台湾統一への圧力を強めたことなどで、米国主導の「中国包囲網」は強まっている。
 習氏による強権的な政治は国内外にあつれきを生み、地域の安定を脅かしている。このままの路線を推し進めても、対立や反発は強まり、内憂外患を深めるだけだ。
 中国共産党は一党独裁下、毛沢東に対する個人崇拝が進んで文化大革命につながるなど、混乱した過去の反省を踏まえて、長年、集団指導体制を取ってきた。
 既に「1強」と言われる習氏へのさらなる権力集中は、それに逆行する。
 中国は人口14億人に上り、国土は広大だ。国家運営は難しいとはいえ、抑圧を強める方向に走れば、国民の不満はいつか噴き出す。
 民主化を進めて、軍備縮小にかじを切り、融和的な外交に努めることこそが、世界第2位の経済大国としての責任だろう。

 

  (社説)中国共産党の歴史決議 国際協調乱す独善は困る
                               2021年11月14日 毎日新聞

 中国共産党100年の歴史を総括することで、習近平国家主席(党総書記)は自らの権威を高め、権力の集中を図ろうとしている。
 党の重要会議である第19期中央委員会第6回総会(6中全会)が過去3度目となる「歴史決議」を採択した。
 建国の父である毛沢東、改革開放路線を主導した鄧小平に続く決議だ。カリスマ指導者と並ぶ存在に自らを位置づけたと言える。来年の党大会で異例の3期目に入る布石とみられる。
 結党以来の歴史を振り返りながら、習指導部の業績に重点を置く内容となった。メディアを動員し、習氏が傑出した指導者だと礼賛する宣伝活動を展開している。
 米中対立や経済の減速など内憂外患を乗り越えるには、強力なリーダーシップが必要だと、習指導部は権力の集中を正当化する。
 格差解消を意味する「共同富裕」を打ち出し、経済や社会への統制を強め、政治の安定を図ろうとしている。
 だが、IT産業や不動産業界への急激な締めつけは外国の市場にも動揺を引き起こした。産業界や投資家には政策の予測がつかないことへの不安が広がる。
 対外政策でも「戦狼(せんろう)外交」と呼ばれる強硬路線で権益の確保を推し進める。東シナ海や南シナ海、台湾海峡などの周辺地域では緊張が高まっている。
 習氏への権限の集中と歩調を合わせるように、国際社会では中国の振る舞いに対する懸念の声が上がる。
 特に日米欧との間では政治制度や人権、自由などの価値観を巡り溝が深い。中国が独自の発展モデルの優位性を強調するだけでは、分断が決定的になりかねない。
 中国は「尊敬され、信頼される国」を掲げる。しかし、国際社会の認識とは隔たりがある。なぜそうなのか。真摯(しんし)に省みるべきではないか。
 求められるのは言論統制よりも、政策や意思決定の透明化、情報公開だ。
 共産党の統治の下で、中国は驚異的な発展を遂げ、米国と覇権を争うまでになった。国際協調に背を向けては大国の責任は果たせない。習指導部が内向きの論理で独善に陥ることがあっては困る。