(社説)米議会騒乱/トランプ氏の罪/重大だ
                                  北海道新聞 2021年1月8日

 民主主義のリーダーを自負してきた米国の歴史に、恥辱と汚点が刻まれた。
 バイデン次期大統領を正式に選出する会議を行っていた連邦議会の議事堂に、トランプ大統領の支持者が乱入し、一時占拠した。
 乱入に伴い支持者とみられる4人が撃たれるなどして死亡した。州兵が動員され、首都ワシントンは夜間外出禁止令が出された。
 民主主義の象徴である議会が騒乱の舞台となり、死者まで出る異常な事態である。
 あろうことか、騒乱を扇動したのはトランプ氏だ。ホワイトハウス前で開いた集会で、敗北を絶対に認めないと表明した上で、支持者に議会に向かうよう訴えた。
 議会では20日の大統領就任に向け、最後の手続きである選挙人投票の確定を上下両院の合同会議で開催中だった。再開後、バイデン氏は正式に選出された。
 トランプ氏はその民主的な手続きを暴力的な手段で妨害するよう促した。憲法に基づきトランプ氏の即時罷免を閣僚が検討しているとの報道もある。もはや大統領の資格があるとは言えまい。
 昨年11月の選挙後もトランプ氏は敗北を認めず、不正があったと主張してきた。それが熱狂的な支持者をあおり、混乱を長期化させたが、法廷闘争では不正の根拠を示せず軒並み敗れている。
 それでもトランプ氏は不正があったとの主張をやめず騒乱後、短文投稿サイトのツイッターと交流サイトのフェイスブックはトランプ氏の投稿を一時凍結した。永久停止もあり得るという。
 トランプ氏は直ちに敗北を認め、平和的な政権移行に協力することが最後の務めである。
 騒乱を受けてトランプ政権の複数の高官が辞任し、与党共和党からも批判する議員が出ている。
 だが、トランプ氏に追従して選挙結果に異議を申し立てる議員もなお少なくない。民主主義をおとしめる行為への加担であると理解できなければ、政治家失格だ。
 トランプ氏の岩盤支持層にも陰りが見える。共和党の牙城である南部ジョージア州で行われた上院2議席の決選投票では、民主党候補がいずれも勝利を確実にした。
 民主党が上下両院とも多数派を奪還し、バイデン新政権は議会運営の主導権を握ることになる。まずは傷ついた民主主義の立て直しが欠かせまい。

  (社説)米議事堂騒乱 民主主義の無残な凋落
                                  朝日新聞 2021年1月8日

 世界に民主主義の範を垂れる。そう自負してきた超大国の無残な凋落(ちょうらく)ぶりである。
 米国の次期大統領を確定させようとした連邦議会が、流血の場と化した。多数の暴徒が議事堂内に乱入、一時占拠した。
 銃撃のほか、周辺での爆発物の発見も報じられている。副大統領や議員らは、ガスマスクを持って避難したという。
 合衆国憲法が定める政権移行の手続きが、暴力によって遅滞させられた非常事態である。この騒乱がなぜ起きたのか、米政界全体が自省せねばなるまい。
 最大の責めを負うべきは、トランプ大統領だ。昨年の大統領選での敗北を受け入れず、「選挙が盗まれた」と支持者たちの怒りをあおり続けてきた。
 振り返れば4年前も、人種差別に反対する人々を白人至上主義者が殺傷した際、明確な非難を避けた。昨年の選挙前も、過激な支持者たちに暴力の否定を命じるか問われると、逆に「待機しろ」と呼びかけた。
 今回の発端となった集会でも、選挙結果を覆すための「戦闘」が呼びかけられていた。憎悪をあおり、法の支配を侮蔑してきたトランプ政治の帰結が、この痛ましい騒乱なのである。
 ただ、いまの米国の分断をひとえに一人の大統領のせいにすることもできない。ここに至る土壌を生んだ格差の広がりや国民統合の失敗は、歴代政権と与野党双方の政治機能の低下によるものだ。
 選挙結果として議会上下両院を民主党が制したことは、バイデン次期大統領にとって朗報に違いない。しかし、今回の事件が象徴する国民の分裂を修復するのは至難のわざだ。
 共和党幹部は6日、議事を再開させた際、「民主主義を壊す試みは敗れた」と語った。守るべきは米国政治の正統性であると信じるならば、共和党は「トランプ党」と化したこの4年間と決別し、次期政権とともに政治を再生する模索を始めなくてはならない。
 政権移行までにあと10日余りあるが、トランプ政権が正常な統治と対外政策の維持を続けられるかすら危ぶまれている。
 ワシントンの「恥ずべき光景」(ジョンソン英首相)を目撃した世界の指導者たちは、米国が主導してきた秩序の揺らぎを再認識しただろう。同時に、米国だけでなく、多くの自由主義国に共通する政治不信の深刻さを直視すべき時でもある。
 政党や政権が目先の利益を追うあまり、国民全体の持続可能な暮らしと幸福を保障する政治が見失われていないか。危機にあえぐ民主主義の立て直しは、日本を含む主要国にとって喫緊の課題である。


 (社説)トランプ派の議会乱入 民主大国の歴史的汚点だ

                                  毎日新聞 2021年1月8日

 目を疑う暴力と混乱が、米国の連邦議会議事堂を襲った。
 バリケードを破って乱入するデモ隊、鎮圧しようと催涙ガスを噴射する警官隊、防護マスクを着けて安全区域に駆け込む議員、場内を占拠し闊歩(かっぽ)する暴徒――。
 民主党のバイデン次期大統領を正式承認する会議中の出来事だった。暴徒は大統領選の「不正」を主張するトランプ大統領の支持者たちだ。議事妨害が狙いだろう。
 警官隊が増派され、事態は収束に向かったが、発砲などで数人が死亡する流血の事態となった。
 権力の民主的な移行を暴力で阻止しようとする試みは前代未聞である。民主大国として世界の範たる米国の歴史的な汚点となろう。
 一義的な責任は暴徒にある。だが、けしかけたのはトランプ氏だ。直前にホワイトハウス前に集まった支持者に「議事堂に行くぞ」と抗議行動を呼び掛けていた。
 これが発火点となり、ツイッターで拡散されたという。暴動後もツイッターでデモ隊を「偉大な愛国者」と呼んだ。
 ソーシャルメディアを通じて増幅した怒りに歯止めがきかず、暴力へとエスカレートしたのが実態だろう。暴動の大きな責任がトランプ氏にあるのは明らかだ。
 米メディアによると、複数の政権高官が抗議の辞任をし、何人かの閣僚は憲法に基づく大統領免職を協議するという異様な事態だ。
 トランプ氏ばかりではない。根拠のない「選挙不正」の主張に賛同した共和党議員も同罪だ。
 選挙結果に異議を唱える共和党議員は大勢いた。トランプ氏の影響力を恐れたりしたようだ。だがこの日の会議でバイデン氏の次期大統領選出は揺らがなかった。
 上院のジョージア州決選投票では民主党が改選2議席を制した。共和党は下院に続き主導権を失うというツケを払うことになる。
 今回の暴動を大統領経験者や与野党の議員が「第三世界のようだ」と表現した。残念だが、それが米国の現実ではないか。
 同盟国にも驚がくが広がる。ジョンソン英首相は「不名誉なことだ」と嘆いた。中国やロシアなど敵対国は米国の民主主義の弱体化をほくそ笑んでいるに違いない。
 トランプ政権はあまりに大きな裂傷を米国政治と社会に残した。

 (社説)米議事堂占拠/民主主義の先導役の名が泣く
                               読売新聞 2021年1月9日

 世界の民主主義を先導してきた米国で、目を疑う光景が広がった。トランプ大統領が煽(あお)り立てた社会の分断と陰謀論は、選挙と議会を否定する暴挙に行き着いたといえる。
 トランプ氏を支えてきた共和党議員をはじめ全ての政治家が、歴史的な汚点を深刻に受け止め、政治の再生に努めねばならない。
 首都ワシントンの連邦議会が、暴徒化したトランプ支持者によって一時占拠された。上下両院の合同会議で、民主党のバイデン氏を次期大統領に正式選出する手続きの最中に多数の支持者が侵入し、議事は中断に追い込まれた。
 民主主義を象徴する議場の審議が暴力で妨げられるという、前代未聞の事態である。警官隊との衝突により、死傷者まで出た。衝撃の大きさは言い尽くせない。
 責任の多くは、トランプ氏にある。合同会議に合わせて、大統領選の結果に抗議する集会を開き、「不正で勝利をさらわれた」という持論を強調して、支持者に議事堂へ行進するよう呼びかけた。
 トランプ氏が乱入を扇動したといっても、過言ではあるまい。今なお、支持者の多くが選挙で不正があったと信じ込んでいる。
 選挙結果が判明した時点でトランプ氏が敗北を宣言し、政権移行に努めていれば、これほどの混乱と衝突には至らなかったはずだ。トランプ氏に同調した共和党議員も非難を免れない。結果の重大さを認識し、目を覚ますべきだ。
 事態収拾後に再開した会議では事前の意思を覆し、選挙結果への異議申し立てに対する賛同を取り下げる共和党議員もいた。立場の違いがあっても、議論を尽くしたうえで歩み寄る民主政治の原点を思い起こしたのではないか。
 バイデン氏は「我々の民主主義は前例のない攻撃を受けている」と危機感を示した。国民の分裂や与野党対立の先鋭化に歯止めをかけることが課題となる。
 副大統領や上院議員時代に共和党とのパイプ役を務めた経験も生かして、議会が機能を発揮できるよう力を尽くしてもらいたい。
 民主党は、ジョージア州の上院2議席を争う決選投票で、いずれも勝利を確実にし、上下両院で多数派を握る情勢になった。
 上院が権限を持つ閣僚などの人事の承認や、法案、予算案などを巡り、迅速な処理が見込めることは新政権の追い風となろう。
 新型コロナウイルス対策や経済の回復策は待ったなしである。目に見える成果を上げるために、新政権と議会が協力するべきだ。

 主張 米議会へ乱入/民主主義の大きな汚点だ                                                    産経新聞 2021年1月9日

 平和的な政権交代は民主主義の核心である。それを阻もうと暴力に訴えることは、あってはならない。
 バイデン米次期大統領の当選を正式に認定する手続きが行われていた連邦議会議事堂内にトランプ大統領の支持者らが侵入し、上院本会議場を一時占拠した。
 これに先立ち、トランプ氏はホワイトハウス前での大規模集会で演説し、大統領選に不正があったと主張して議事堂への行進を呼びかけた。これが議会乱入につながった。結果として扇動したことになる。
 軽率で無責任なトランプ氏の言動は強い非難に値する。トランプ氏は事件発生後、ツイッターに動画を投稿し、デモ隊に「気持ちは分かるが自宅に戻ってほしい」と呼びかけたが後の祭りである。
 事件は米国史上の大きな汚点となった。威信の回復は並大抵のことではない。
 昨年11月の米有権者による一般投票でバイデン氏が当選を確実とし、勝利宣言した。だが、トランプ氏は敗北を認めなかった。
 選挙に不正があったとして裁判に訴えたが、大半は証拠不十分などとして却下された。トランプ氏がジョージア州の州務長官に「票をみつけろ」と求めたのは度を越した圧力である。
 この事件で、警察に銃撃された女性1人を含む5人が死亡した。米民主主義を象徴する建物での流血の惨事に愕然(がくぜん)とする。
 共産党独裁の中国に対し、米国は民主主義諸国のリーダー格の国である。その米国で民主主義が十分に機能しない事態が起きたことは憂うべきことだ。
 トランプ氏は一般投票で現職として史上最多の7400万票を獲得したが、バイデン氏には及ばなかった。
 米大統領選は敗者が勝者に祝意を表明することで決着をつけてきた。こうした慣習は民主主義の潤滑油として欠かせない。
 大統領の交代は20日正午である。トランプ氏は7日、投稿した動画で「新政権が20日に発足する。今は円滑で切れ目のない政権移行に集中している」と語った。ようやく事実上の敗北宣言をしたことになる。
 トランプ氏の残る任期はわずかだが、民主主義を傷つけた言動を反省し、責任ある政権移行に努めてもらいたい。

 (社説)トランプ政権終焉/民主主義をむしばんだ
      
                           東京新聞 2021年1月9日

 米国の混迷は目を覆うばかりだ。それでも民主主義はかろうじて踏みとどまった。破壊を重ねたトランプ政権が20日に終焉(しゅうえん)を迎える。
 平和的な政権移行の手続きを暴力で阻止しようという事件は、米国史上の汚点になるだろう。トランプ大統領の支持者らが暴徒化して連邦議会議事堂に乱入した。

◆嘘を最大の武器にして
 しかもトランプ氏が「議会へ行こう」とそそのかしたのが発端だから、その責任は極めて重い。政権や共和党からも退任目前のトランプ氏の罷免論が出る事態だ。
 トランプ政治の本質は「嘘(うそ)」である。根も葉もない陰謀論や科学を無視した言説も持ち出し、自己を正当化する。昨年の大統領選でも、根拠もなく選挙不正を主張して敗北を明確には認めなかった。
 その裏でトランプ氏は複数の州の共和党関係者に選挙結果を覆すよう求めて画策した。
 南部ジョージア州の政府高官との電話会談では、票の再集計をして自分の敗北を覆すのに必要な「11780票を見つける」よう迫った録音がメディアによって暴露された。

 選挙結果を改ざんするよう圧力をかけたと見なされる悪質な行為である。
 ワシントン・ポスト紙の集計によると、トランプ氏は就任から昨年11月初めまでに、嘘や不正確な主張を29000回以上垂れ流した。
 嘘と同時に社会の分断を進行させる言動も振りまいた。立場の異なる相手は徹底的に攻撃した。白人至上主義者を否定せず、人々の心の奥底に潜む弱者やマイノリティー(少数派)への偏見・差別意識を解き放った。
 ところが強固な支持層は、トランプ氏の言説をほぼ無条件で受け入れた。初当選した2016年の大統領選で、トランプ氏は「私が(ニューヨーク・マンハッタンの)五番街で人を撃っても、支持を失うことはない」と豪語したことがある。岩盤支持層の熱狂こそがトランプ氏に力を与えた。

 その暴走を止めるのが、議会の役目であったはずだ。
 共和党良識派の故マケイン上院議員が「われわれはトランプ氏の部下ではない。仕える相手は国民だ。大統領を監視する役割がある」と同僚議員に訴えたことがある。だが共和党議員はトランプ人気を前にして臆した。
 今回の大統領選でも、トランプ氏に忠誠を示して選挙結果に異議を唱えた共和党議員は多かった。

◆暴走許した議会共和党
 制度とルールにのっとって公正に行われた選挙結果を認めないのは、民主制度の根幹をないがしろにするものだ。共和党はトランプ氏と決別を果たさないと、将来はあるまい。
 トランプ氏は人事権を乱用し、自分に従わない目障りな存在を政権から放逐した。チェック・アンド・バランスの著しい機能低下は、民主政治の劣化を招く。
 ただ、トランプサイドが大統領選の不正を訴えて起こした約60件の訴訟のほとんどを、裁判所は退けた。
 トランプ氏が指名した3人の判事によって保守派が多数を占める連邦最高裁判所も却下した。
 民主主義は「トランプ」というストレステストをしのぎ、崩壊をからくも免れた。
 暴走は国内にとどまらなかった。トランプ氏は自由主義諸国との同盟関係を損ね、時に米国を孤立させた。「米国を再び偉大な国に」のスローガンとは裏腹に、米国の国際的地位は低下した。
 一貫性のない場当たり的な外交は、世界の大きな不安定要因にもなった。米国が主導した戦後の国際秩序の破壊にトランプ氏は躍起になった。
 トランプ氏が残した傷痕は深い。しかも毒性の強いトランプ流の政治手法が消えたわけではない。息を吹き返す日が来るかもしれない。

 それをどう封じ込めながら民主主義の立て直しを図るのか。米国の大きな課題である。
 分断が深まる米社会で幅を利かすのは「トライバリズム(部族主義)」だ。人種、民族、政治信条などの違いに応じてできた集団に閉じこもり、異なる集団を許容しない。

◆他者を認める寛容さを
 トランプ支持層ばかりでなく民主党の左派勢力にも、異論を許さぬ不寛容な風潮が広がる。
 しかし、対立や異なる利害関係を調整していくのが政治のはずだ。トライバリズムを克服しないと政治は機能不全に陥る。バイデン次期大統領はトランプ支持層も包み込む寛容さを示してほしい。
 社会の融和を図るのは容易ではない。それでも米国民は自由と平等をうたった建国の精神を思い出してほしい。米国が輝きを失わないために。

(社説)米議会へ暴徒乱入/トランプ氏の罪、明白だ
                           中國新聞 2021年1月9日

 米国の民主主義にとって、恥辱にまみれた最悪の日として歴史に刻まれるに違いない。
 トランプ米大統領の支持者が、バイデン次期大統領を正式に認定する会議が行われていた連邦議会の議事堂に乱入し、実力行使で一時占拠した。
 バイデン氏の当選を認めない支持者らは議事を妨害しただけでなく、一部が暴徒化して警官隊と衝突。数人が死亡する流血の惨事になった。
 合衆国憲法が定めた民主的な政権の移行手続きを暴力で阻止しようとした前代未聞の出来事である。米国内外に与えた驚きと動揺は計り知れない。
 議会への乱入を扇動する形で引き金を引いたのは、あろうことかトランプ氏である。もはや大統領の資格はあるまい。その責任は明白で、厳しく問われなければならない。
 トランプ氏は首都ワシントンに集まって抵抗の意を示すよう支持者に呼び掛けていた。当日もホワイトハウス近くの集会で演説し、「弱腰では米国を取り戻せない」と大統領選の無効を訴えた。「議事堂まで歩こう。私も行く」とあおると、数千人の支持者が呼応した。
 トランプ氏は昨年11月の大統領選での敗北を受け入れず、証拠も示さず「不正投票」と吹聴し、支持者の怒りをたきつけてきた。それだけでも民主政治を否定するような振る舞いだろう。その上暴動をあおって選挙結果を覆そうとしたのなら、もはや「犯罪」と批判されても仕方あるまい。
 議事堂周辺の騒乱は、軍を出動させることでまもなく鎮圧された。再開した会議で、上院議長を務めるペンス副大統領は議場への襲撃を「暴挙」と強い口調で非難した。トランプ氏の要求もはねつけ、バイデン氏の当選認定を宣言した。
 騒乱から一夜明け、トランプ氏もツイッターに動画を投稿し、「新政権が20日に発足する。今は円滑で秩序だった政権移行に集中している」と述べ、バイデン氏の大統領選での勝利を事実上認めた。
 連邦議会を占拠した自身の支持者については「暴力や無法に憤っている。米民主主義を汚した」と非難した。閣僚や高官が辞任を相次ぎ表明し、民主党のみならず、身内の共和党議員からも責任を問い、解任を求める声が広がっている。
 強まる批判をかわしたい身勝手さも透けるが、約束通りに平和的な政権移行に協力することが最後の務めだと肝に銘じるべきだ。20日に迫るバイデン氏の大統領就任式が安全に実施できるよう、これ以上の混乱は許されない。
 共和党の牙城だったジョージア州で行われた上院2議席の決選投票では、民主党候補がいずれも勝利し、上下両院ともバイデン氏の陣営が多数派を確保することになった。
 新大統領に就くバイデン氏にとっては追い風になるが、強引な議会運営をすれば、新たな火種を生みかねない。人種や宗教、文化の対立、経済格差などが複雑に絡み合い、幾重にも分断された米国がまとまりを取り戻すのは至難の業だ。
 バイデン次期大統領には、二極化している市民間の溝を埋めながら、トランプ政権の4年間で深く傷ついた米国社会の修復に努めることが求められる。

 (社説)米議事堂乱入/民主政治を揺るがす汚点
                                西日本新聞 2021年1月9日

 これが民主主義の盟主をうたう国の出来事なのか。目を覆うばかりの光景だった。

 米国で昨年11月に投開票された大統領選の「不正」を訴えるトランプ大統領の支持者が暴徒化して、米連邦議会議事堂に乱入し、一時不法占拠した。議員らは避難し、暴徒を鎮圧する警察の発砲により死者を出す惨事に至った。
 この異常な事件が起こったのは、バイデン氏の次期大統領当選を正式に認定する会議のさなかだった。トランプ氏は直前の支持者集会で「議事堂に向かうんだ」と直接の抗議を促し、その結果として、憲法が定める政権移行の手続きが妨害された。
 選挙結果を力ずくで覆そうとする暴徒を現職大統領が扇動するのは前代未聞の事件だ。世界的にも民主政治の根幹を揺るがす歴史的な汚点である。断じて許してはならない。
 言うまでもなく、トランプ氏に最大の罪がある。いかに選挙結果に納得がいかなくても、虚偽を交え利己的な言動を繰り返す姿には、まともな国家指導者としての自覚は感じられない。
 トランプ氏の任期は残り2週間を切った。それでも民主党のペロシ下院議長がペンス副大統領に大統領の罷免を求め、できなければ弾劾訴追の手続きに進む意向を示した。与党共和党からも責任追及の声が上がっている。当然のことだろう。
 事件後、トランプ政権の閣僚らが相次いで辞任した。トランプ氏もようやく大統領選の敗北を認め、議会を占拠した自らの支持者を批判した。遅きに失したと言わざるを得ない。政権移行を円滑に進める意向も表明したが、言葉だけでなく具体的な行動で示してほしい。
 この惨事を引き起こした背景には、法の支配や人権を軽んじるトランプ流政治に歯止めをかけられなかった米国政治の機能不全があるだろう。
 トランプ氏への熱烈な支持にあやかろうと同調してきた共和党の責任は重い。トランプ氏は次期大統領選の立候補に含みを残す。しかし、社会の分断を深め、未来を描くことのできない独善的な政治にはもう決別する時期ではないか。
 バイデン次期大統領にとっては、議会でも民主党が上下両院で過半数の議席を確保し、ひとまず安定した政権基盤を得られることになった。
 ただ、これで安心できるわけでない。今回の事件は米国社会の亀裂が一層深まっている現実を国内外に見せつけた。
 その修復には与野党の枠を超えて格差の是正に取り組み、民主政治を再建しなければならない。それが次期政権にとって最大の課題となる。