連載 原発のたたみ方 12

  3号機核燃料、6割取り出し 福島第1、難関これから  2020年9月24日 毎日新聞 

 史上最悪の原発事故を起こした東京電力福島第1原発。あの日から9年半がたとうとしていた9月初め、記者は現地を訪れ廃炉作業の様子を取材した。1~4号機の原子炉建屋を眺めていると、主な作業がどこまで進み、何が課題なのかがうかがえた。

 記者は移動用のマイクロバスに乗り込み、敷地の山側の南北に広がる海抜33・5メートルの高台で下車、海がある東側に目を向けた。すると、約100メートル先に1~4号機の原子炉建屋が見渡せた。

  事故発生当時、1~3号機は運転中で、4号機は定期検査中で止まっていた。1、3号機と、3号機と配管でつながっている4号機で水素爆発が発生。1~3号機の原子炉内にあった核燃料は、溶け落ちて周囲の構造物と混ざり「燃料デブリ」になった。1~4号機の使用済み核燃料プール内にはそれぞれ392~1535体の核燃料が保管されていたが、そのまま冷やし続けることができ、さらなる惨事は免れた。
 3号機のバウムクーヘンを横倒ししたような円柱状のカバーの中では、東電が水深12メートルの使用済み核燃料プールから核燃料の取り出し作業を進めている。「燃料を取り出すため新たに設置したクレーンがあります」。東電福島第1廃炉推進カンパニーの視察担当、植田雅之マネジャーが高台でそう教えてくれた。
 プール内や周辺には、水素爆発で崩れ落ちた天井や周辺の機器のがれきが散乱した。がれきの撤去が進んでも、設備のトラブルなどで核燃料の取り出し開始は予定より4年以上遅れ、2019年4月にようやく始められた。クレーンで約300キロの核燃料を1体ずつ持ち上げる。建屋内の放射線量は高く、約500メートル離れた施設から作業員がモニターを見ながら遠隔操作している。
 当初、566体もあった核燃料は、20年9月11日までに336体を取り出し、別の建物のプールに移した。だが最大の難関はこれから。落下したがれきが当たり、16体の核燃料で取っ手の変形が見つかったためだ。東電は変形した取っ手でもクレーンで持ち上げられる「つかみ具」を開発するなどして、21年3月に作業を終わらせたいとしている。

●汚染水1日160トンに減少


 土遮水壁の装置。
 左は4号機=福島県大熊町で1日、小川昌宏撮影

 高台からマイクロバスで坂を下ると、4号機の原子炉建屋を見上げることのできる場所に着いた。地中では1~4号機を囲うように凍土遮水壁が築かれており、目の前に関連の装置が見えた。
 敷地内の地下には、山側から大量の地下水が流れてくる。1~4号機の地下部分の壁のひびから建屋内に入り込んだ地下水や、雨漏りによる雨水が燃料デブリに触れるなどして、汚染水が日々生じている。地下水の浸入を防ごうと13年5月に建設が始まったのが、凍土遮水壁だ。
 約1500本の管を地下30メートルまで打ち込み、管内に氷点下30度の液体を循環させて地中の水分を凍らせ、凍土の壁を張り巡らせた。その全長は約1・5キロにもなる。建設には国費が345億円投じられ、凍らせ続ける電気代など維持費に年間数億円かかる。費用は消費者の電気代に跳ね返る。
 汚染水の発生量は、以前は1日当たり600トンにも上ったが、山側での地下水のくみ上げなどにより、今年4~7月末は160トンにまで減った。政府・東電の廃炉工程表では20年内に150トン、25年に100トンに減らすとしている。東電は建屋の屋根の新設を進めており、担当者は「20年内に150トンという目標は達成できそうだ」と説明する。 建屋周辺では、徐々に放射線量が下がっていることから、原子力規制委員会は建屋の地下に埋まる壁のひびの補修を検討する段階になったとみている。更田(ふけた)豊志委員長は「いつ(凍土壁を)止めるか、そろそろ議論を」と話す。
 一方、凍土壁の効果に疑問を持つ専門家もいる。東電は18年、凍土壁が汚染水の発生量をどれだけ抑えたかを試算したところ、1日95トン減らせていると説明した。しかし、NPO法人「原子力資料情報室」の伴英幸共同代表は、発生量の減少は山側での地下水のくみ上げの効果の方が大きいと見ており「本当に凍土壁が必要だったか検証する必要がある」と指摘する。 廃炉工程表の一部は、これまで何度も先送りになってきた。11年12月から30~40年後を廃炉措置終了としているが、現場からはまだ、その姿を想像できなかった。【荒木涼子】