《論説》 年金額引き上げ 次世代に確かな給付を

2024年1月24日 山陰中央新報

 2024年度の公的年金額が改定され、前年度から2.7%引き上げられる。68歳以下の場合、自営業者らが入る国民年金は満額だと月6万8千円で1750円増。会社員らの厚生年金は、平均的な給与で40年間働いた会社員と専業主婦の世帯では2人で月23万483円と6001円増える。

 引き上げは6月に受け取る4月分から。名目賃金上昇に伴う改定で、増額は2年連続。過去30年で最も大きい増額幅だ。年金暮らしの高齢者には朗報に聞こえるかもしれないが、増額幅は物価上昇に追い付かず、年金は実質的に目減りする。

 これは、少子高齢化に応じて年金給付の伸びを抑える「マクロ経済スライド」という仕組みが前年度に続き発動されるためだ。本来の改定率から0.4%分を差し引く。

 現行の年金制度は、現役世代が納めた保険料を主な財源として、高齢者向けの給付を賄う「仕送り方式」。少子化で支え手が細る中、高齢化で仕送りを受ける側が増え年金財政の収支バランスが不安定になるのを、同スライドによって給付の伸びを抑えて是正する。

 物価が上がるほどには年金額が増えないことに、納得できない高齢者も少なくないだろう。だが将来世代に適切な年金の給付水準を確保するためには、現在受給している世代の給付抑制が欠かせない。政府は高齢者に理解してもらえるよう、制度の意義について念入りに説明するべきだ。

 保険料を負担している現役世代もまた、実質賃金が20カ月連続でマイナスとなるなど、物価高騰に賃金の伸びが追い付かず、高齢者同様に暮らし向きは厳しい。世代間で反目するのではなく、お互いに痛みを分かち合うことが望ましい。

 マクロ経済スライドは04年の年金改革で導入が決まった。物価や賃金が下落するデフレの局面では適用しない決まりとなっていることから、実施されるのは24年度でようやく5回目になる。ただ、近年の制度改正で手直しを図ったところ、19年度以降では2カ年度を除いて適用されており、財政収支は改善傾向にある。同スライドの着実な実施を続けて安定した年金制度を維持し、子や孫の世代の安心につなげていくことが大切だ。

 今年は5年に1度、年金財政の健全性を点検する「財政検証」が行われる。検証結果を受け、制度改正に向けた議論が加速することになるが、マクロ経済スライドの見直しも検討課題の一つだ。現行のルールでは、2階建ての公的年金のうち、2階に当たる厚生年金の報酬比例部分ではスライドによる給付抑制は25年度で終わり、1階の基礎年金部分は46年度まで長期化する。この結果、1階の給付水準の大幅な低下が避けられない見通しとなっている。

 厚生労働省はこれを改め、2階の給付抑制期間を延長する一方、1階の抑制終了を前倒しする見直し案を検討中だ。実現すれば、基礎年金の給付水準が底上げされるという。老後の貧困を防ぎ、制度への信頼感を高める効果はあるだろう。

 もっとも厚労省案では、厚生年金の加入者が納めた保険料を基礎年金に回すことになり、反発も予想される。給付底上げに伴って国庫負担が増えるから、その財源の調達も難題だ。幅広く国民の意見に耳を傾け、丁寧に議論を進めてほしい。