《社説》 地震と原発 幅広い視点で教訓導け

2024年1月18日 朝日新聞

 能登半島地震は、原子力防災にも多くの課題を突きつけた。電力会社や政府、自治体は幅広い視野で検証し、何が教訓か考える必要がある。

 北陸電力志賀原発では、使用済み燃料プールの水がこぼれ、冷却ポンプも一時止まった。外部電源を受ける変圧器が損傷し、油が漏れた。周辺に自治体や国が設けている放射線量の測定設備の一部は、データが送れなくなった。いずれも原因や影響を詳細に調べなければならない。

 地震による津波の影響について、北陸電力は当初、敷地内に海水を引き込んでいる水槽の「水位変動は確認できなかった」としていたが、約3メートル上昇していた。変圧器から漏れた油の量も最初の発表の5倍以上だった。相次ぐ訂正に、経済産業省から正確な情報発信を指示された。

 慎重になるあまり発表が遅れてはならないが、誤情報は住民に不安を与え、被害の過小評価は重大な結果を招きかねない。他の電力会社も含め、教訓にすべきだろう。

 志賀原発は、敷地内の断層の評価をめぐり、2号機の再稼働の審査が長引いている。2016年に有識者会合が「活断層と解釈するのが合理的」と評価したが、北陸電力が反論し、原子力規制委員会が昨年、同社の見解を認めたところだった。

 一方、規制委は10日に、今回の地震の知見を収集するよう原子力規制庁に指示した。地震の審査を担当する委員は「いくつかの断層が連動して動いている可能性がある。専門家の研究をフォローし、審査にいかす必要がある」と発言しており、丁寧な分析と検討が求められる。

 活断層や地震の連動、揺れの想定や施設への影響など、今回の地震が浮き彫りにした課題は、志賀原発にとどまらず全国の原発に多かれ少なかれ共通する。今回の震源の近くには、かつて珠洲原発の立地も検討されていた。教訓を引き出し、規制や防災に役立てなければならない。

 今回の地震では、道路の寸断による半島の孤立も改めて問題になった。四国電力伊方原発や東北電力女川原発なども半島にある。原発事故が起きた場合に、避難や救援を妨げかねない。家屋の激しい損壊状況をみれば、放射線を避けるための屋内避難もできない恐れがある。

 規制委は原子力災害対策指針の見直しを検討するというが、緊急対応や避難対策の課題を掘り下げてほしい。

 地震大国での原発のリスクが、改めてあらわになった。政府は、原発の活用に前のめりの姿勢を改めるべきだ。