《社説》 辺野古着工 疑問は膨らむばかりだ

2024年1月12日 朝日新聞

 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設を巡り、政府は軟弱地盤がある大浦湾側の着工を強行した。自治体の自己決定権や環境への深刻な影響、工事の安全性など多くの問題を残したもので、強く抗議する。

 仮に計画通りに工事が進んでも移設は2030年代半ば以降になる。総工費は当初見込みの約2.7倍の約9300億円というが、地盤改良などでさらに増え、工期も延びる可能性もある。

 これだけの期間と費用をつぎ込むことへの根本的な疑問は膨らむばかりだ。

 何より普天間の危険性を一刻も早く除去するという目的は果たせない。軍事的な面からも、完成後の辺野古の滑走路は約1800メートルと普天間の約2700メートルと比べて短く、山に囲まれて視界が遮られるなど地理的な制約がある。

 加えて、普天間移設が合意された四半世紀以上前から、米軍の東アジア戦略は大きく変わっている。中国のミサイル能力の向上を受け、今の米軍は「分散化」「小型化」が基本戦略だ。その中でなぜ、様々な問題を抱えた巨大な基地を新設する計画だけが「唯一の解決策」であり続けるのか。合理的な説明は乏しい。

 今回、沖縄県に連絡があったのは、着工直前だったという。玉城デニー知事が「極めて乱暴で粗雑な対応」と怒ったのは当然だ。

 また、ここ数年、政府は沖縄を中心とする南西諸島に次々と陸上自衛隊の駐屯地を開設してきた。それらの運営には、地元の理解と協力が不可欠のはずだ。県との対立を深めたまま、国の安全保障をどう安定的に確保するというのか。岸田政権には県との信頼関係を築く責任がある。

 埋め立てが世界的に貴重な生態系に影響を与えるのも必至だ。県民の強い反対や、7万本余りの杭を打ち込むという前例のない工事への疑問などから、朝日新聞の社説は辺野古移設に反対してきた。着工後もそれは変わらない。

 かつて米上院議員が辺野古移転は費用面などから「非現実的」と疑問視した。最近は日本の民間シンクタンクが海兵隊の拠点を沖縄以外に移す策も提言している。辺野古に固執せず、政府は現実的な代替案を米側と協議すべきだ。

 玉城知事にも、将来を見据えた新たな戦略を示すべきだといった批判がある。着工は知事にとっても正念場だ。他の自治体も、地方の自主、自律性の尊重や基地負担のあり方など、辺野古が突きつけた問題を自ら直面する課題ととらえ、ともに解決策を考える必要がある。