《社説》 大浦湾埋め立て着手 政府の暴走、禍根を残す

2024年1月11日 琉球新報

 政府は無謀な工事に踏み切った。沖縄の民意を無視し、豊かな辺野古の海を傷つける問答無用の姿勢は到底許されるものではない。

 普天間飛行場の返還に伴う名護市辺野古の新基地建設で、沖縄防衛局は軟弱地盤が存在する大浦湾側の埋め立て工事に着手した。12月の福岡高裁判決に基づき、玉城デニー知事に代わって斉藤鉄夫国土交通相が防衛局の設計変更申請を承認したのを受け、工事に踏み切った。

 沖縄の民意は新基地建設に反対であること、辺野古海域の生態系を破壊し、地域の住環境にも悪影響を及ぼすこと、軟弱地盤が存在し完成が見通せないことを挙げ、県民は工事をやめ、新基地建設計画を見直すよう求めてきた。

 それでも沖縄の声に背き、石材を海に投じた。政府の暴走は民主主義の否定であり、後世に深い禍根を残すことになる。岸田文雄内閣は沖縄の民意を足蹴(あしげ)にし、国策を強行した民主主義否定の内閣として歴史に刻まれよう。

 岸田首相は記者団に「準備が整ったため、工事に着手した。一日も早い普天間飛行場の全面返還に向けて努力を続けていかなければならない」と述べた。政府は工事完了までの工期を「9年3カ月」としている。移設完了は12年後となる見込みだ。

 12年も返還を待たなければならず、その間は危険性が放置されるならば、県民にとって受け入れがたい不条理だ。

 しかも、在沖米軍高官は新基地完成後も普天間を使い続ける可能性を示唆している。2017年に、当時の稲田朋美防衛相も国会答弁で米側との返還条件が整わなければ、普天間の継続使用があり得ることを認めている。

 「辺野古唯一」という言辞を掲げ、政府が固執する新基地建設の合理性はとっくに破綻している。新基地建設計画を推し進める限り、普天間の危険性除去は実現しないというのが沖縄の訴えだ。政府はこの計画は無謀で実現可能性に乏しいことを認め、新たな危険性除去策について米側との協議を始めるべきだ。

 県は着工前の事前協議を求めていた。高裁判決を不服として県は最高裁に上告している。本来ならば県との協議に応じ、少なくとも最高裁判決が出るまで着工を見合わせるべきであった。玉城知事が「極めて乱暴で粗雑な対応」と批判したのは当然だ。岸田首相は「これからも丁寧な説明を続けていきたい」と述べたが、その気があるなら直ちに工事を止め、県と協議に臨むべきだ。

 最高裁では、実質審理を求めたい。地方自治を否定した政府の行為を追認した福岡高裁判決を厳格に審理することは「憲法の番人」たる最高裁の責務である。それも大法廷で玉城知事が意見陳述することが望ましい。日本全体の民主主義と地方自治の行方にも関わる裁判であることを沖縄から訴えたい。