《社説》 「原発3倍」賛同 再エネ加速こそ連携を

2024年1月6日 北海道新聞

 東京電力福島第1原発事故の災禍を経験した日本は加わるべきではなかったろう。津波が押し寄せた能登半島地震の光景を見て、改めてそう思わざるを得ない。

 世界の原発の設備容量(発電能力)を2050年までに20年比で3倍に増やす宣言である。

 先月の国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)の際に米国主導で打ち出され、日本を含む23カ国が賛同した。

 気候変動対策の一環として、賛同国が協力するとしている。

 岸田文雄政権は国内については想定していないとするが、次世代原子炉の開発や原発関連の輸出などにつなげたい思惑も透ける。

 原発は安全性の問題のほか建設に時間を要し、喫緊の気候対策に役立たないと指摘される。高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分も多くの国は未解決だ。

 日本には原発のリスクを世界に伝える責務もあるはずだ。原発推進ではなく、再生可能エネルギーの普及や化石燃料に頼る国の脱炭素化などの支援でこそ、国際的な連携を図っていくべきである。

 宣言には原発稼働国のほか、ポーランド、ガーナといった建設計画段階の国も賛同した。

 ロシアによるウクライナ侵攻でエネルギー安全保障の重要性が高まった。天候に左右されず、運転時に温室効果ガスを出さない原発が注目されている面はあろう。

 だが福島事故後の安全規制強化で建設費は急増し、海外では1基当たり1兆円以上かかる事例もある。気候対策の本命である再エネ普及の妨げになりかねない。

 国内外の環境団体が、誤った気候変動対策は真の対策を遅らせると訴えるのは当然である。

 政府には原発産業を支援する狙いがうかがえる。特に小型モジュール炉(SMR)など岸田政権が推進する次世代炉の開発だ。

 日立製作所は米ゼネラル・エレクトリック(GE)との合弁でSMRの開発に、三菱重工業などは高温ガス炉に取り組んでいる。

 昨年11月には米国初のSMR建設計画が中止された。コスト増で採算が見込めないためという。

 次世代炉にひそむリスクは未知数だ。岸田政権の前のめりの姿勢は危ういと言うほかない。

 COP28では、世界の再エネの設備容量を30年までに3倍にする誓約も提起され、日本を含む116カ国が賛同した。

 原発3倍の23カ国との大きな差が、世界の潮流を示していることを見誤ってはならない。