《社説》 辺野古代執行 地方自治の今後に禍根

2023年12月29日 朝日新聞

 地方自治の今後に禍根を残すできごとだ。前例にしてはならない。

 沖縄県宜野湾市の米軍普天間飛行場を名護市辺野古に移設する計画を巡り、国土交通相はきのう、玉城デニー知事に代わって承認する「代執行」をした。防衛省は近く工事に着手する方針だ。抑制的であるべき最終手段が、地元が抵抗するなかで使われたのは残念で、容認できない。

 最高裁が県敗訴の判決を出した後も知事は承認しなかった。だから地方自治法に基づき正当な手続きを経たというのが国の言い分だろう。

 たしかに不承認は法治主義に反するという見方はある。だが、司法は一貫して国の姿勢を追認し、とくに最高裁は承認要件の根幹である軟弱地盤のリスクに触れず、手続き論で県の主張を退けた。代執行を認めた先日の司法判断もそれを下敷きにしたものだ。歯止めを失った政策が強権的に実行されるのは、民主主義にかなうとは思えない。

 予定通りに工事が進んでも供用開始までに12年かかる。大規模な地盤改良は難工事となり、さらに遅れる可能性もある。その間、普天間の安全をどう担保するのか、明確な具体策は示されていない。

 自治体と国が対立した時の民主的解決方法が本来どうあるべきか。考え直す時だ。

 地域の自主性を高めるため地方分権一括法が施行されたのは2000年だった。その7年前の衆参両院による地方分権推進決議は「国から地方への権限移譲」を図り、自治体の自律性を強めて「21世紀に向けた時代にふさわしい地方自治を確立することが現下の急務」とした。

 国の「下請け仕事」といわれた機関委任事務の廃止など一連の改革で、いびつな上下関係はどれだけ改善されたのか。分権の流れは停滞、後退しているようにも見える。

 首相の諮問機関の地方制度調査会は、政府が閣議決定すれば個別法に規定がなくても自治体に指示できる「指示権」を盛り込んだ答申を、21日に首相に提出した。国民の安全に重大な影響を及ぼす感染症や災害の時を念頭に置くという。辺野古の対応をみれば、新たな権限が自治体の自主性を損ねずに運用できるのか、懸念を払拭(ふっしょく)できない。

 国の「公益」と民意のはざまに立たされた沖縄の現状は一つの県の問題ではない。重要な課題こそ対話を通じて解決すべきだ。膨大な法定受託事務を任されている都道府県はじめ各自治体は分権の現状を点検し、地域本位の行政という大切な足場が崩れぬよう取り組んでほしい。