《社説》 物価高騰下の春闘 持続的な賃上げの実現を

2023年12月28日 毎日新聞

 物価高を克服し、経済の好循環を実現するためにも大幅な賃上げの流れを持続させる必要がある。

 来年の春闘に向け、連合は定期昇給分を含めて「5%以上」の賃上げを求めることを決めた。「5%程度」とした今年より表現を強め、高水準の回答を引き出したい考えだ。

 自動車や電機などの労働組合でつくる金属労協も今年を大幅に上回る要求を打ち出している。

 2023年春闘では連合の集計で平均3.58%の賃上げを勝ち取り、約30年ぶりの高さとなった。

 しかし、物価の動きも反映した厚生労働省発表の実質賃金を見ると、10月まで19カ月連続でマイナスとなっている。長引く物価高に賃金の上昇が追い付いていないということだ。

 これまで企業はデフレの長期化を受け、業績が改善しても内部留保の形で利益をため込み、積極的な投資を手控えてきた。

 社員の賃上げも進まず、個人消費の低迷が経済を下押しする状況を招いてきた。

 来年の春闘は、この悪循環を断ち切る絶好の機会だ。

 大企業は新型コロナウイルス禍の収束や円安の恩恵で、輸出関連を中心に好業績を続けている。

 経営側には社員に賃上げで報いる動きを定着させる努力が求められる。人への投資は競争力の強化にもつながるはずだ。

 焦点は国内で働く人の約7割を雇用している中小企業の対応だ。

 中小企業庁の調査によると、原材料価格や人件費の上昇が続いているにもかかわらず、中小企業の約2割が「価格転嫁が全くできていない」と回答している。

 コストの上乗せを求めても、大企業などの発注元がなかなか応じないことが背景にある。

 中小企業に幅広く賃上げを促すには、発注元に有利な商慣行の見直しを含め、経済界全体の意識改革が欠かせない。

 政府は価格転嫁の交渉を不当に拒む発注元に対し、厳しい姿勢で臨む方針だ。経済団体や連合も「中小企業いじめ」に対する監視を強めてほしい。

 賃金の上昇が経済成長を促す社会の実現に向けた正念場だ。政労使が総力を結集して取り組まなければならない。