《社説》 殺傷武器輸出 国民不在の転換不誠実だ

2023年12月27日 新潟日報

 殺傷能力のある武器の輸出を可能にする安全保障政策の大転換だが、なし崩しで決められた。国会での議論もない国民不在の決め方は、不誠実だ。

 政府は、防衛装備品の輸出ルールを定めた防衛装備移転三原則と運用指針を改定した。

 最も大きな変更点は、外国企業が開発し日本企業が許可を得て製造する「ライセンス生産品」の輸出解禁だ。これまでは米国に対して部品のみを認めていたが、完成品を含め米国以外のライセンス国にも輸出できるようになる。

 政府は直ちに新規定を適用し、米国企業のライセンスに基づき日本で生産する地対空誘導弾パトリオットの米国への提供を決めた。2014年の三原則制定以降、殺傷能力がある武器の輸出を決めたのは初めてだ。

 殺傷能力のある武器や弾薬に関しては、「戦闘が行われている国」への移転は除く。日本からのパトリオットはウクライナに渡ることはないという。

 しかし、ウクライナへの軍事援助を続ける米軍の弾薬不足を補えば、間接的な支援につながるとの懸念がある。

 輸出した装備の目的外使用や第三国への流出などで、国際紛争を助長するリスクもある。

 ルール改定では、現在でも輸出可能な「掃海」といった非戦闘目的5分野については、業務や自己防衛のためなら殺傷武器の搭載もできるとした。

 装備品の部品の輸出は、部品自体に殺傷能力がなければ5分野以外でも可能になる。

 疑問なのは、これほどの大きな政策転換にもかかわらず、改定協議が自民、公明両党の実務者と政府の限られた関係者だけで進められたことだ。

 自公が提言をまとめてから9日後に、政府は改定に踏み切った。移転三原則は閣議で、運用指針は国家安全保障会議(NSC)で決めた。紛争助長の歯止めをどうするかといった論点は残された。

 平和主義を唱える憲法の精神に基づき、日本は長年、武器輸出には慎重な立場だったが、輸出した武器が使用されれば、憲法が禁じる他国の武力行使との一体化となる恐れもある。

 今回、政府がすぐにパトリオットの輸出を決めたのは、輸出拡大への第1弾としての実績づくりの狙いもあるだろう。国民の声に耳を傾けずに、既成事実化を急ぐような対応は許し難い。

 一方、次期戦闘機など国際共同開発する完成品の第三国輸出については公明が慎重で、与党協議の結論は持ち越された。

 政府は来年2月末までに結論を出すよう求めているが、拙速な対応は慎むべきだ。

 年明けの通常国会で、政府は国民に対し真摯(しんし)に説明せねばならない。野党も厳しく追及すべきだ。