《論説》 辺野古代執行判決 強権で負担押し付けか

2023年12月21日 山陰中央新報

 在日米軍専用施設の7割が集中する沖縄に、県民の反対を押し切ってさらに米軍基地を建設する。それも知事の権限を奪う代執行という強権で負担を押し付ける。政府の姿勢には問題点が多い。安全保障戦略は変化している。政府は既定方針に固執するのではなく、最新の安保戦略に沿って方針を見直し、沖縄の負担軽減に取り組むべきだ。

 米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設を巡り、海底の軟弱地盤改良工事の設計変更を玉城デニー知事が承認しないのは違法だとして国が承認を求めた代執行訴訟の判決で、福岡高裁那覇支部は知事に承認するよう命じた。

 知事が従わなければ、国土交通相が承認を代執行する方針だ。工事が止まっている辺野古沿岸部北側で、政府は埋め立て工事に着手する。

 高裁判決は、普天間飛行場の危険性がある中で「設計変更承認の事務を放置するのは社会公共の利益を侵害する」と判断した。だが、改良工事は順調に進んでも事業完了まで12年かかるとされる。市街地の中心部にあり、危険性が指摘されるため日米両政府が1996年に合意した普天間飛行場の返還は2030年代半ば以降となる見通しだ。その間、危険性は固定化される。政府が急ぐべきなのは普天間飛行場の運用の停止を米側と交渉、実現することではないか。

 代執行は国と地方の関係を「上下」から「対等」に改めた地方分権改革で2000年に導入された手続きで、実行されれば初めてのケースとなる。地方自治法では「放置すれば著しく公益を害することが明らか」な場合に限定するなど厳しい要件が定められている。

 玉城知事は口頭弁論で、直近3回の知事選や、7割超が埋め立て反対の意思を示した19年の県民投票結果から「民意こそが公益だ」と強調。承認しても普天間飛行場の危険性を早期に取り除くことにはならず、軟弱地盤改良の困難な工事に公金を出し続けることになると主張した。

 これに対して国側は、放置すれば日米同盟と安全保障の不利益が生じ、「普天間固定化回避という公益上の課題が達成できない」と反論。高裁は、承認を巡る別の訴訟で9月に最高裁で県側の敗訴が確定しているのに知事が対応しないのは法令違反だと認定。国側の訴えを認めた。

 だが、安保政策上も辺野古の新基地建設が本当に有効で「公益」に沿うのかは疑問だ。南西諸島周辺で有事が起きれば、沖縄の米軍基地は真っ先に攻撃の対象となるだろう。このため、米軍の最近の戦略は機動性を重視。沖縄の米海兵隊は11月に、小規模で機動的な即応部隊を発足させた。大規模な基地建設はもはや時代遅れと言うべきだ。

 さらに辺野古の新基地は普天間飛行場よりも滑走路が短く、米軍には使い勝手が悪い。在沖縄の米軍幹部は11月、辺野古移設を「最悪のシナリオ」と呼び、「純粋に軍事的な観点からは普天間にいた方がいい」と報道陣に語った。本当に返還されるのかも不明確だ。

 25年以上も前に決まった移設合意を「唯一の解決策」として進めるのは思考停止ではないか。最新の戦略に沿って既定路線を見直して行くことが日米同盟を本当に機能させるためには必要だ。固定化をやめれば、沖縄の基地負担は軽減できる。