《社説》 米の拒否権行使 ガザ「虐殺」への加担だ

2023年12月13日 東京新聞

 イスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザへの侵攻を巡り、即時停戦を求める国連安全保障理事会決議案が否決された。米国が拒否権を行使したためだが、人道的破局を回避するための国際社会の努力を踏みにじる暴挙である。日本政府は米国に翻意を促すべきだ。

 ガザでは1日の戦闘再開後、住民の犠牲が絶えず、開戦以来1万8千人以上が死亡している。

 人道物資が枯渇し、負傷した子どもが麻酔なしで切断手術を施されている状態だ。グテレス国連事務総長は2017年の就任以来初めて、国連憲章99条に基づいて人道的停戦を求めるよう安保理に要請し、決議案の基盤になった。

 停戦とイスラム組織ハマスが拘束する人質解放などを要求する決議案は約100カ国が共同提案。安保理15カ国中、日本など13カ国が賛成したが、英国は棄権し、米国は拒否権を行使した。米国の拒否権行使は10月以来2回目だ。

 バイデン大統領らがイスラエルにガザ住民の保護を求めている米国の拒否権行使は言行不一致であり、国際NGOに「住民の虐殺への加担」と指摘されて当然だ。

 バイデン政権は議会の承認を省く異例の形で、イスラエルへの戦車用弾薬の緊急売却も決めた。これではイスラエルに民間人保護を求めたこともアリバイづくりに過ぎぬというそしりは免れまい。

 イスラエル軍報道官はハマス戦闘員1人の殺害に住民2人が犠牲になっている状況を「非常に良い比率」とも言明した。拘束した住民を下着姿にして連れ去るなど、戦時国際法も無視している。

 ロシアのウクライナ侵攻を「法の支配」に反すると非難する米国がイスラエルの暴挙を看過することは二重基準にほかならない。

 米国は拒否権行使が自らの威信低下と国際的孤立を招くと自覚すべきだ。パレスチナ自治政府のアッバス議長も米国を「戦争犯罪の共犯者」と批判している。

 ガザでは住民の8割が家を追われ、感染症まん延も懸念される。即時停戦実現を米政権に働きかけるのが「平和国家」たる日本の責務だ。もはや一刻の猶予もない。