《社説》 武器輸出緩和 平和国家の原点に返れ

2023年12月10日 朝日新聞

 昨年末の安保3文書の改定を受けて、武器輸出の緩和を検討してきた自民、公明両党の作業チームが、政府への提言案をまとめた。

 日本が英国、イタリアと組んで開発する次期戦闘機を念頭に、国際共同開発した武器を、日本から第三国に輸出することを認めるか否かが焦点だった。いったんは容認に傾いた公明が慎重姿勢に転じ、年内合意は見送られた。

 戦闘機は殺傷兵器そのものである。憲法で平和主義を掲げる日本は、国際紛争を助長しないよう、武器の輸出を厳しく自制してきた。社説は、国民的議論もないまま、殺傷能力のある武器の提供に道を開こうとする岸田政権を厳しく批判してきた。

 共同開発の相手国は第三国に売れるのに、日本だけが輸出できないと、販路が限られ、全体の生産計画に影響する。共同開発の枠組み自体にも支障が生じかねない。自民側はそう主張する。

 だが、問われるのは、日本自身の主体的な意思である。第三国に地域の緊張を高めるような使い方はさせないと、責任を持てるのか。共同開発品がいいなら、単独開発品もいいだろうと、輸出できる殺傷兵器の範囲がなし崩しに広がる懸念もある。

 次期戦闘機の共同開発をめぐっては、近く3カ国の防衛相が会談して、関連条約への署名が予定されている。自民が決着を急いだ理由だ。他国との合意を先行させ、それに合わないからと、原則を変えようとする進め方自体、そもそも間違っている。

 輸出できる武器を「救難・輸送・警戒・監視・掃海」に限る「5類型」の見直しも、先送りされた。撤廃を求める自民と、「地雷処理」などの追加にとどめたい公明との溝が埋まらなかった。国際共同開発の問題と併せ、年明け以降、協議が再開するだろうが、平和主義の原点に立ち返った議論を求めたい。

 一方、提言案には合意事項として、防衛装備移転三原則の前文にある武器輸出の目的に、「国際法に違反する侵略を受けている国への支援」を加えることが盛り込まれた。

 現在はロシアの侵略を受けるウクライナだけを、個別に対象としているが、被侵略国全般に広げようというわけだ。ただ、「侵略」を客観的に認定するのは容易ではない。事例ごとに慎重に判断しなければならない。

 提供できる装備品は、ウクライナへのものと同様、防弾チョッキやヘルメットなど、殺傷能力のないものに限られるという。この原則は堅持されなければならない。