《論説》 核兵器禁止条約会議 唯一の被爆国が動かねば

2023年12月5日 福井新聞

核兵器禁止条約の第2回締約国会議は「人類の存亡に関わる核兵器の脅威に対処し、禁止と廃絶に取り組む」との決意を新たに示す政治宣言を採択して閉幕した。条約は2021年に発効し93の国・地域が署名、69の国・地域が加盟している。第2回会議には日本の被爆者や広島、長崎の両市長が出席したが、政府の姿はなかった。

 米ロ中など核保有国の出席がない一方で、北大西洋条約機構(NATO)に加盟するドイツやベルギー、ノルウェーに加え、オーストラリアがオブザーバー参加した。いずれも米国の「核の傘」に依存しているものの、前回と同様に核禁条約加盟国の声に耳を傾け対話する道を選んだ。とりわけ、オーストラリアはアルバニージー首相が野党時代から核軍縮に強い個人的な思い入れがあるとされ、条約に理解を示してきた。トップの判断があってこその参加だろう。

 それに比して、岸田文雄首相が一貫して後ろ向きなのはなぜか。被爆地・広島を故郷とするトップであり、「核なき世界」の実現がライフワークとまで公言している。連立を組む公明党がオブザーバー参加を促したが、「条約に核兵器国は一国も参加しておらず、出口に至る道筋は立っていない」と従来の立場を強調し続けている。

 核を巡る情勢は緊迫の度を強めている。ロシアのプーチン大統領がウクライナ侵攻以来、何度も核使用の威嚇を繰り返し、今年に入ってからは新戦略兵器削減条約(新START)の履行停止を表明。さらには、隣国ベラルーシに核配備し包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准も撤回している。中国も核兵器の増強を加速させる。米国防省は30年に核弾頭数が千発を超えると推計しており、二大核大国に匹敵しかねない。

 そうした中、米国でも核軍拡を進めるべきとの声が上がり始めている。米ロ中加盟の核拡散防止条約(NPT)は核廃絶に向けた交渉を義務付けているが、これとは逆行する、核強化への動きが活発化している。

 核使用のリスクが現実味を帯びるからこそ、日本は核に明確なノーを突き付ける締約国会議の主張に耳を傾けた上で、国際社会と連携して中ロへの圧力を強めて、米国にも理解を求める時だろう。今回の宣言ではオブザーバー参加国に配慮し、「核共有」への言及を避け「非核保有国の領土への核配備」を憂慮するとの表現にとどめた。

 岸田首相はこのままでは「核なき」は一歩も進展しないと自覚するべきだ。唯一の被爆国としてグローバルサウスなどとの連携は欠かせないはずだし、次回こそはオブザーバー参加へと動かなければならない。