《社説》 核禁条約会議 日本の不在理解できぬ

2023年11月30日 東京新聞

 核兵器禁止条約の第2回締約国会議が米ニューヨークの国連本部で開幕した。被爆者が核戦争の危機を訴えた場に、唯一の戦争被爆国であり、核廃絶を唱える日本政府代表の不在は理解できない。政府にはまず会議にオブザーバー参加するよう重ねて求めたい。

 長崎で被爆した日本原水爆被害者団体協議会(被団協)の木戸季市(すえいち)事務局長(83)=岐阜市=は会議で、ロシアのウクライナ侵攻、イスラエルのパレスチナ自治区ガザでの軍事作戦に触れ「核戦争が起きれば死の世界が残るだけだ」と警告した。

 日本政府は「条約に核兵器国は1カ国も参加していない。核兵器国を関与させる努力をしなければならない」(松野博一官房長官)として、昨年6月の第1回会議に続き、今回も参加を見送った。

 核禁条約は、核兵器の保有や開発、使用、威嚇を禁じる。日米安全保障条約で米国の「核の傘」に依存する日本政府は、核禁条約に署名する考えはないとしている。

 ただ、条約上の義務も議決権もないオブザーバー参加は直ちに可能だ。政府が核禁条約の実効性に疑義があるなら会議で発言すべきだ。それこそが核保有国と非保有国の「橋渡し役」ではないか。

 オブザーバー参加が核抑止力を損なうと考える理由も乏しい。日本同様、米国の核抑止力に頼る北大西洋条約機構(NATO)加盟国のドイツやベルギー、ノルウェーもオブザーバー参加した。

 岸田文雄首相は核廃絶への「唯一の現実的な道」として核拡散防止条約(NPT)を重視するが、米ロ中英仏の核保有国が参加するNPT再検討会議は決裂が続く。米ロの核軍縮枠組みは崩壊に向かい、非加盟国の核保有も進む。NPTこそ実効性が揺らぐ。

 一つの国際枠組みに固執しても核軍縮を進められまい。日本政府はあらゆる機会、手段を利用して核廃絶を訴えるべきである。

 首相は核禁条約を「核兵器のない世界への出口ともいえる重要な条約」と評価するが、就任から2年を経てもオブザーバー参加に踏み出そうとしないのでは、核廃絶にかける熱意を疑うほかない。