《社説》 ガザの医療危機 病院での戦闘 許されぬ

2023年11月16日 朝日新聞

 命を守るべき病院への武力行使は、いかなる理由であれ正当化できない。速やかに戦闘をやめ、患者や医療従事者の安全を確保すべきだ。

 イスラエル軍がきのう、パレスチナ自治区ガザで最大のシファ病院に突入し、軍事作戦を始めたと発表した。

 イスラム組織ハマスが病院の地下に拠点を設け、戦闘員が建物を利用しているからだという。病院関係者は「根拠がない」と否定している。

 軍はハマスに対する「正確で標的を絞った作戦」だとして、民間人への危害を避けると説明している。

 だが、国際人道法の中心であるジュネーブ諸条約が、戦時においても医療のための要員や施設などを保護するよう定めていることを、改めて強調しておきたい。

 病院内には家を失った避難者も合わせて数千人の市民が身を寄せている。軍事作戦で戦闘員だけを掃討するのは不可能に近い。医療行為も続けられない。国際人道法に違反する可能性が高い。

 シファ病院だけでない。世界保健機関(WHO)によると、ガザの36の病院のうち22が機能を停止し、残る14もぎりぎりの物資しかない。イスラエル軍の戦闘や包囲で、水や医薬品、発電用の燃料などを補給できないからだ。

 患者や負傷者は麻酔なしで手術を強いられる。十分な酸素を与えられず未熟児の赤ちゃんの命が失われていく。

 医療崩壊というべき惨状のなか、埋葬されない遺体が増え続け、感染症の蔓延(まんえん)が懸念される。病院施設を直接攻撃して破壊しなければ許されるという話ではない。

 国際支援が届かない理由の一つに、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)で働く100人以上がガザでの戦闘に巻き込まれ死亡している現実がある。国連加盟国が行う軍事作戦で、短期間でこれだけ多くの国連職員が犠牲になるのは前代未聞だ。

 だが、イスラエルの国連大使は「ガザのUNRWA職員の多くがハマスのメンバー」と根拠なく発言するなど、国連不信を隠さない。イスラエルは歴史的に「特別な関係」にあり、毎年巨額の軍事支援を受ける米国の声にしか耳を貸すつもりがないのだろう。

 その米国のバイデン大統領は「病院は守られなくてはならない」と述べた。一方で政府高官は「ハマスが病院を軍事利用している」と批判するなど、米国が発するメッセージに一貫性がない。

 懸念の表明では不十分だ。民間人の犠牲を止めるためイスラエルを強く説得する重い責任が、米国にはある。