《社説》 通販配達員の労災認定 実態に即し支える制度を

2023年10月29日 毎日新聞

 ネット通販アマゾンジャパンの商品を配達中に負傷した男性が、労働災害の認定を受けた。下請けの運送会社と契約するフリーランスだが、実態は従業員と同じだと労働基準監督署が判断した。

 労災保険は勤務中に死傷した場合の治療費や休業などの補償を給付する制度だ。企業が払う保険料でまかなわれ、保護の対象は従業員に限られる。フリーランスも個人で加入できる制度はあるが、保険料は自己負担だ。配達員は未加入だった。

 しかし、アマゾンのアプリから指示を受け、下請け会社の指揮監督下にあった。従業員と同じように働いているのに待遇が異なる。これでは公平といえない。働き手の立場を重視した労基署の判断は妥当と言えよう。

 企業と雇用契約を結ばずに業務を受注する働き手は約460万人に上る。自身の能力を生かせる仕事を選ぶことができ、働く時間や場所が比較的自由なのが利点だ。

 ただ、企業と対等の立場で仕事ができる人材は限られる。収入は不安定になりがちで、育児休業や年金などの安全網も脆弱(ぜいじゃく)だ。

 デジタル技術の進化や新しいビジネスモデルの登場で、フリーランスとは名ばかりの働き方も増えている。アマゾンや飲食宅配ウーバーイーツと配達員の関係は、雇用に極めて近い。

 企業は業務を外注すれば、社会保険料や人件費などのコストを抑えることができる。消費者も手ごろな価格でサービスを受けられる。だが、そのしわ寄せが働き手に集中するようであれば、理不尽というほかない。

 従業員と同じ働き方をしているのなら、労災などのリスクへの対応は企業が引き受けるのが筋だ。雇用関係にないことを理由に負担を回避するようでは、社会的責任を果たしているとはいえない。

 政府はフリーランス保護の新法を制定し、取引の適正化や、育児・介護への配慮などを発注企業に義務づけた。ただ、社会保障を巡る格差や、ネットを介して単発の仕事を請け負う働き手の保護など、積み残された課題は多い。

 多様な働き方に対応したルールが必要だ。政府は実態に即して労働者を支える安全網の構築を急がなければならない。