《社説》 来年の春闘 賃上げの持続に道筋を

2023年10月28日 朝日新聞

 物価や賃金が本格的には上がらない状況は、四半世紀に及ぶ。そこから抜け出せるか、日本経済は分水嶺(ぶんすいれい)にある。成否を左右するのが来年の春闘だ。その重みを労使ともに認識し、大幅な賃上げの継続に努めねばならない。

 労働組合の中央組織・連合は、来春闘での賃上げ目標を、定期昇給込みで「5%以上」とする方針だ。賃金体系を底上げするベースアップ(ベア)では「3%以上」となる。「経済社会のステージ転換を着実に進めるべく、前年を上回る賃上げを目指す」(芳野友子会長)という。

 今年の春闘の賃上げ率は、定昇込みで3.58%と30年ぶりの高さとなった。ただ、ベアでみれば2%程度だ。足もとでも3%前後が続く消費者物価の上昇を補い切れず、働き手の購買力を示す実質賃金は、8月まで17カ月連続でマイナスに沈む。

 民間の予測では、消費者物価は24年度も2%程度の上昇が見込まれている。「前年を上回る」程度の賃上げでは、暮らし向きの改善は限定的だ。「5%程度」を掲げた今年の春闘を経ても、賃金の実質的な目減りを食い止められていない。それを踏まえれば、「5%以上」とした来年の目標も、働き手にとって十分といえるか疑問が残る。

 一方で、資源などの高騰を起点とした今回のインフレが、長らく「物価や賃金は上がらない」ことを前提としてきた人々や企業の行動を変えつつあるのも事実だ。来春闘で持続的な賃上げに道筋をつけられれば、経済の好循環の実現も見えてくる。

 物価高に苦しむ家計を支えるのはもちろん、日本経済の積年の課題を乗り越えるためにも、大幅な賃上げが広く支持される局面といえる。連合は賃上げをいっそう積極的に訴え、労使の交渉を主導すべきだ。役割を十分に果たせなければ、その存在意義が改めて問われよう。

 経団連の十倉雅和会長は25日の記者会見で、賃上げを「最大限の熱量で呼びかけていきたい」と話した。企業の社会的責務として賃上げが求められているのは来年の春闘も同じだ。企業業績は総じて堅調で、働き手に報いる姿勢を強めるべきだ。

 持続的な賃上げを、中小企業や非正規社員を含めた働き手全体に広げることも大きな課題だ。労務費の上昇分も含めた価格転嫁の実現が重要であり、大企業側は誠実に応じなければならない。政府は、年内にまとめる労務費転嫁の指針を実効性あるものにするとともに、大企業側の対応を厳しく監視してほしい。