《社説》 長時間労働是正 充実した人生のために

2023年10月27日 東京新聞

 長時間労働など過重な負荷による疾患で労災認定される件数が増えている。政府は「働き方改革」を掲げるが、十分な効果を上げているとは言い難い。健康に働ける労働環境の整備を急ぎたい。

 政府が公表した2023年版の「過労死等防止対策白書」によると、脳・心臓疾患による労災認定は16年度から減少傾向だったが、22年度は194件(うち死亡は54件)と前年より22件増えた。

 精神障害による労災認定は22年度は710件(うち自殺は67件、未遂含む)と過去最多で増加が止まらない状況。いずれも主として長時間労働に起因しており、過重な労働の是正が進んでいない実態を示している。

 23年版白書は、労働者約1万人を対象にした睡眠の実態調査も実施し、45・5%は睡眠が6時間に満たないと答えた。

 一方、62・5%が7時間以上の睡眠が理想と考え、理想より4時間不足している人の約3割、5時間不足の人の約4割が「重度のうつ病・不安障害の疑い」があるとされた。睡眠不足が体や心の健康を損なう恐れがあることが、調査であらためて裏付けられた形だ。

 長時間労働は人の「幸福感」にも影響すると白書は指摘する。労働はやりがいや喜びを感じる営みでもあるはずだ。長時間労働をしなくても充実した人生を送れる働き方に改めなければなるまい。

 政府は残業時間の上限を法律で規制し、企業への監督指導を強化しているが十分ではない。

 終業から次の始業までに一定の休息時間を確保する「勤務間インターバル制度」は長時間労働の是正に効果があるとされるが、導入企業は22年時点で5・8%にとどまる。増加傾向にあるとはいえ、25年に15%にする政府目標には遠く及ばない=グラフ。

グラフ

 導入企業を増やすためにも、未導入企業に対しては制度の意義を粘り強く説明してほしい。

 長時間労働が減れば、子育てや介護、自らの治療を抱える人も柔軟な働き方ができる。業務の効率化が進み生産性も上がれば賃金も増える。それは企業の利益にもなると認識を改める必要があろう。