《社説》 フリーランス 働く人守る制度整えよ

2023年10月9日 東京新聞

 働き方は時代とともに変わりつつあるが、どんな働き方を選んでも、法的な保護が受けられ、安心できる就労環境が欠かせない。社会の変化に対応して働く人を守る制度への改善を進めたい。

 インターネット通販大手アマゾンの下請け企業と荷物配送の業務委託契約を結んだフリーランスの男性が配達中に負ったけがを巡り、労災保険法上の「労働者」と労働基準監督署が認め、休業補償の給付を決定した。

 個人で仕事を請け負うフリーランスら個人事業主は独立して働く自営業者とみなされ、雇用されて働く「労働者」を保護対象とする労働関係法令上の法的保護を受けられてこなかった。

 監督署は今回の場合、配達する荷物量などはアマゾンの専用アプリで指示されており、労働時間は下請け企業を通じて管理されて働いていたと判断したようだ。

 政府の調査ではフリーランスは全体で約462万人に上る。ネット通販の拡大により物流業界で増えるフリーランス配達員には個人事業主のような裁量がなく、雇用されて働く労働者と同じ働き方をする「偽装請負」が横行しているとも指摘される。

 取引の適正化やハラスメント対策を盛り込んだフリーランス保護新法が4月に成立しており、政府は来秋にも施行する方針だ。

 さらに、フリーランスが労災保険に加入できるよう対象拡大を検討中。働く人の安全や健康を守るために企業側が取るべき措置などを定めた労働安全衛生法も、フリーランスを対象に含める方向で検討が始まった。

 しかし、フリーランスは雇用保険に入れないため、失業給付や育児休業給付が受け取れず、厚生年金にも加入できない。

 働く人が自らの能力を発揮するには、安心して働ける就労環境を整えることが前提だ。企業側もそうした環境をつくることが、人材の確保や定着につながると認識すべきではないか。

 次々と新しい働き方が現れる時代だ。働く人の実態に即した安全網を整える必要がある。政府も企業もさらに知恵を絞ってほしい。