《社説》 辺野古代執行 強行手段に踏み切るな

2023年10月6日 朝日新聞

 「苦渋の決断」を国が強いたに等しい。頭ごなしの手続きは亀裂を深めるだけで、強引な手法に強く反対する。

 沖縄県の米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設をめぐり、玉城デニー知事は軟弱地盤の改良工事の設計変更申請について「承認は困難」と国に回答した。国土交通相はきのう、国が県に代わって承認する「代執行」のための訴訟を起こした。

 9月4日の最高裁判決で県の訴えが退けられて以降、国側は矢継ぎ早に県に承認を迫り、追い詰めている。

 自治体の長が最高裁判決にただちに従わないことには批判もあろう。一方、昨年の知事選で玉城知事は移設反対を公約に掲げて再選された。19年の県民投票では、7割超が埋め立て反対の票を投じている。自らにかけられた期待と行政トップとしての義務の間で下した、ぎりぎりの判断を重く受けとめたい。

 今後は工事を遅らせたとして国からの損害賠償請求もありえる。覚悟の上ならどういう事情と目算があるか、知事は国に対してはもちろん、議会や会見などあらゆる機会を通じ発信せねばならない。

 残念なのは国の態度だ。最高裁判決の後、朝日新聞の社説は、裁判が長期化した理由を振り返り、地元と誠実に向き合うよう政府に求めた。だが、国交省は一方的に勧告と指示を出し、対話を求める県の要請を踏みにじっている。

 岸田首相は「国交相が適切に対応する」などと述べ、接触に乗り出す姿勢は見えない。斉藤鉄夫国交相も県に出した是正指示の正当性を強調し、「一連の手続きは適法性が確定している」と繰り返す。溝が深まっている今こそゼロから仕切り直すべきだ。

 最高裁は是正指示を適法としただけで、工事の問題点には踏み込まなかった。県の不承認に対し、国の機関が「私人」の立場で別の大臣に審査を求めた問題にも言及せず、自治体を従わせる強引な手法を是認したとの批判もある。

 軟弱地盤の調査が不十分。工期が長期にわたり普天間の危険性の早期除去につながらない。こうした県側が訴えてきた疑問に、国は今後もこたえていく責任があろう。そのためには「辺野古が唯一の解決策」というかたくなな姿勢を国がまず改めることだ。

 忘れてはならないのは、この問題は沖縄だけのものではないということだ。自治を軽視するような国策のごり押しはあしき前例となる。何よりも国内の米軍専用施設の7割を沖縄に集中させ、負担を強いている現実に目を向け、我がこととして考えよう。