《社説》 フリーランス 実態に即し 働き手守れ

2023年10月6日 朝日新聞

 ネット通販「アマゾン」の運送委託先で働く配達員が、業務中のけがで労働災害の認定を受けた。形の上ではフリーランス(個人事業主)だが、実態は労働者にあたると労働基準監督署が判断した。多様な働き手の暮らしと権利が十全に守られるよう、制度運用の改善と安全網の充実を急ぐ必要がある。

 配達員は、アマゾンの配送を担う運送会社との業務委託契約の形で働いていた。実際には、配達先や労働時間は、アマゾンが提供するスマートフォンのアプリを通じて管理されていたと主張し、労働者と認められる判断要素になったようだ。

 アマゾンでは昨年、別の委託先でも配達員の働き方が労働者にあたるとして是正勧告を受けた。アマゾンジャパンが直接委託する配達員も含め、フリーランスの形をとる働き手は多い。

 重層的な下請け構造の上に立って収益を上げるアマゾンには、法令の順守や適切な労働環境の確保を図る重い責任がある。委託先のことなので無関係だと開き直るようなことは到底許されない。

 労働者としての認定は、労働時間規制や残業代、最低賃金にもかかわる。アマゾンと委託先の運送会社は迅速かつ誠実に対応すべきだ。

 労働者かどうかは「働き方の実態に基づいて判断」するという方針は、21年に政府が示した指針にも明記されている。行政も実効性の確保に努めなければならない。

 従来の基準そのものが労働環境の変化に即しているかどうかの点検も必要だ。インターネットを介して仕事を請け負う「ギグワーカー」なども登場する中で、勤務場所や時間の管理といった目安だけでは、こぼれ落ちる働き手も出かねない。

 その上で、フリーランス自体の安全網も、さらに充実を図らなければならない。

 4月に成立したフリーランス新法には、取引の適正化やハラスメント対策が盛り込まれた。政府はさらに、労働安全衛生法の対象にフリーランスを加えたり、労災保険に特別加入できる範囲を広げたりすることを検討中だ。

 だが、病気やけがで働けなくなった時の補償の問題などはなお残る。労災保険の特別加入は任意で、保険料は本人負担だ。育児休業給付金や失業した時の手当もない。厚生年金にも加入できない。

 雇用労働者と全く同列には扱えないにせよ、現状では、あまりに格差が大き過ぎる。働き方の多様化を踏まえながら、安全網のあり方の議論を急ぎたい。