《社説》 核のごみ処分場 交付金での誘導は限界

2023年9月28日 京都新聞

 原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場選定を巡り、長崎県対馬市の比田勝尚喜市長は、第1段階の文献調査に応募しないと表明した。

 同市議会は12日、地元の建設業団体が出した調査受け入れ促進の請願を僅差の賛成多数で採択し、市長の決断が焦点となっていた。

 比田勝氏は「将来的な想定外の要因による危険性が排除できない」と懸念を述べ、市民の合意が十分でないと説明した。

 そもそも核のごみの処分場確保は、原発を推進する政府と電力会社の責任だ。ところが安全性などの議論を後回しに、多額の交付金で誘って地方の自治体に押し付ける進め方の限界と不合理さを浮かび上がらせたといえよう。

 核のごみは地下300メートルより深い岩盤に埋める「地層処分」にすると法律で決まっている。地震も多い日本で長期間、安全に管理できるのか不安は根強い。

 文献調査は選定への3段階の調査の端緒で、国から最大20億円の交付金が受け取れる。次に進むかは改めて判断し、いつでも辞退できて交付金を返還しなくてよい。

 これを地域振興に使おうというのが対馬の商工業者ら推進派の主張だ。2006年ごろから誘致が議論され、勉強会も開かれたが、市議会は07年に反対決議をした。

 誘致論が再燃したのは、止まらぬ人口減と地域衰退への危機感からだ。ピーク時の1960年の約6万9千人から2020年に3万人を割り、高齢化も著しい。

 一方、基幹産業の水産業や観光への風評被害などを懸念し、漁協の一部や市民団体が反対に動いた。比田勝氏は20年の市長選で誘致しないと演説し、慎重姿勢を取ってきた。賛否が割れ、市民の分断が深まるのを避けたのだろう。

 これまで文献調査への応募は20年の北海道の寿都町と神恵内村だけ。同様に人口減と財政難の中で交付金による活性化を掲げたが、予定の2年を超えて調査が続く。

 隣接する町村で核ごみの持ち込みを拒否する条例が相次ぎ成立したほか、北海道知事が反対意向を示し、同意を得ての第2段階入りは見通せない。

 行き場のない核のごみを増やさぬ脱原発が求められると同時に、現に抱えるごみ処分は避けて通れない。国は17年、処分場の立地適正を地図で示したが、適地を絞らなかった。自治体の誘致任せでなく、科学的見地から候補を挙げ、多角的な検討と合意の形成に国が責任を持って取り組むべきだ。