《社説》 対馬市と核ごみ 処分場選定方法見直せ

2023年9月28日 北海道新聞

 長崎県対馬市の比田勝(ひたかつ)尚喜市長が原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場選定に向けた文献調査に応募しない考えを市議会本会議で表明した。

 市議会は地元建設業団体の調査受け入れを求める請願を賛成10、反対8の僅差で採択しており、市長と議会の判断が割れた。

 市長は「市民の合意形成が不十分だ。観光業、水産業などへの風評被害が少なからず発生すると考えられる」などと説明した。

 本会議後の記者会見では「これで終止符を打ちたい。市民の分断を進めたくない」と述べた。

 国は応募拒否の重みを真摯(しんし)に受け止める必要がある。巨額の交付金で市町村を誘導する処分場選定手続きを抜本的に見直すべきだ。

 対馬市では2006年に民間主導で核ごみ処分場を誘致する動きがあったが、市議会が誘致反対を決議し下火になった。

 人口減少が進み、地域経済も停滞する中、調査応募による最大20億円の交付金などへの期待から、再度応募の動きとなった。賛成派は来春の市長選に対立候補を立てることも視野に入れる。

 衰退する地方の弱みにつけ込むような国の手法が住民の分断を招いている。文献調査を受け入れた後志管内寿都町でも見られる構図だ。地方振興の政策と処分場の選定は切り離すべきだ。

 核のごみは無害化まで約10万年かかる。交付金目当ての誘致は将来に禍根を残しかねない。福島の原発事故の教訓でもある。

 折しも寿都町議選がきょう告示される。調査継続の是非など、議論を深めてもらいたい。

 最終処分場選定は、国が主体的に責任を持ち科学的に進めることが大前提だ。原子力発電環境整備機構(NUMO)は調査地を増やそうと、各地で活動している。

 対馬では請願採択前、NUMOが費用を負担し、一部市議が宗谷管内幌延町や青森県六ケ所村を視察した。関係者を懐柔するような行為は不信感を生むだけだ。

 国は17年に適地・不適地を大きく色分けした「科学的特性マップ」を公表したが、そもそも火山国、地震国の日本に遠い未来まで地盤が安定した適地など本当にあるのだろうか。

 日本学術会議は核のごみを地上で暫定保管した上で、処分地選定と国民の合意形成を進めるべきだと提言している。

 事実上破綻している核燃料サイクル政策と併せ、核のごみの問題を一から考え直さねばならない。