《社説》 ストライキの力 労働組合の存在感示せ

2023年9月27日 朝日新聞

 社会を支える働き手にとって、ストライキは主張を貫くための重要な手段だ。最近、その力を感じさせる出来事が続いている。決して「時代遅れ」ではなく、賃上げの交渉力を高めるうえでも効果を発揮する。労働組合はその価値を再認識してほしい。

 米投資ファンドへの売却交渉が進んでいた「そごう・西武」の労組が先月末、大手百貨店では61年ぶりのストに踏み切った。売却は実行されたが、ファンドは最大限の雇用維持への支援を表明した。ストを通じ、労組が存在感を示したといえるだろう。

 他にも様々な動きがある。北海道の千歳相互観光バスでは4月に労組が24時間ストを打ち、5千円のベースアップと20万円の賞与を得た。さらに非正規にも同額の賞与を求めてストを通告したところ、会社側が支給に応じた。

 靴小売り大手のABCマートでは、ユニオン(個人加盟型労組)に入って交渉したパート女性がストを打ち、交渉を重ねた。その結果、5千人の非正規従業員の平均6%賃上げを勝ち取った。

 労働者が団結して経営側と交渉し、必要な時にストライキなどの争議行為を起こす権利(労働三権)は憲法で保障されている。個々では弱い労働者の地歩を高め、経営と対等に渡り合えるようにすることは、労使の公平な関係をつくる上でも意味がある。

 ただ、過去30年余り、社会の注目を集めるようなストは少なくなった。厚生労働省によると、半日以上のストは1974年には5千件以上あったが、昨年は33件しかない。

 バブル崩壊後の経済停滞で雇用環境が悪化し、多くの労組はベア要求やストを構えるような交渉から遠ざかった。賃上げが獲得できない中で、労組の組織率の低下はさらに進んだ。

 それでも経営側に働き手に報いる姿勢があればよいが、現実の企業に目立つのは、賃上げの停滞の一方で、内部留保や株主配当を積み上げる姿だ。経営側が真摯(しんし)に交渉に臨まない時には、ストの力も背景にした労組の取り組みが今こそ必要になっている。

 ストでの休業で利用者が不便を感じることもあるが、消費者の多くもそれぞれの職場では働き手だ。労働者が公正に扱われる社会の意義を重んじたい。米国でも自動車大手などにストが広がるが、米財務省は8月、労組の活動が賃金を押し上げ、中間層や経済全体にプラスになるとの調査結果をまとめている。

 来月にも連合が来年の春闘の賃上げ目標を固める。労働組合の底力を期待したい。