《社説》 辺野古で沖縄県敗訴 首相は県民と向き合え

2023年9月5日 秋田魁新報

 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古移設を巡り、軟弱地盤改良工事を不承認とした沖縄県に対する国土交通相の「是正指示」の妥当性が争われた訴訟で、最高裁は県側の上告を棄却した。沖縄県側敗訴の福岡高裁那覇支部判決が確定した。

 敗訴確定により玉城デニー知事は厳しい対応を迫られよう。ただ裁判の結果は結果として、沖縄県民の基地負担軽減を求める意思を無視したり、軽んじたりしてよいはずはない。その声に耳を傾けた上、工事再開以外の道がないかを探りたい。

 埋め立て予定地で軟弱地盤が見つかったことで工期が大幅に遅れ、総工費は当初計画より増えることが確実だ。地盤改良工事の調査が不足だという県側の主張にも説得力がある。

 今後さらに工期が遅れ、総工費が膨らむ懸念も払拭できない。既に予定外のトラブルがあった工事で国と県の主張に対立が生じているのは当然といえないか。最高裁が上告審で県側に弁論の機会を与えなかったことは疑問だ。

 普天間飛行場の辺野古移転は沖縄県の基地問題の過去と未来に深く関わる。日本全体の0.6%の広さという沖縄県に、国内にある米軍専用施設の面積の約7割が集中する。事故、事件、騒音といった基地負担も沖縄が突出している。

 住宅地や学校と隣り合わせで「世界一危険な米軍基地」といわれる普天間飛行場の移転は今すぐにでも必要だ。しかし移転先が同じ県内であれば県民の負担は続く。沖縄県民にとって「基地のない未来」が描けないのはあまりにも残酷なことだ。

 それにもかかわらず、岸田文雄首相をはじめとする政権側が「基地負担を減らす」と胸を張るのは奇妙に映る。さらに軍事力増強が著しい中国に近い離島の石垣島や宮古島では、自衛隊の配備が次々と進められている現実もある。

 一方で政府は辺野古移設で対立する玉城知事に対し、沖縄振興予算の減額による揺さぶりをかけているようだ。2013~21年度は3千億円台を維持。それが22、23年度は2600億円台まで減った。

 本土との格差是正が進んだためというが、対立が背景にあるとの説にもうなずける予算額の推移だ。国が強引な手法を用いてまで地方を従わせようとする姿勢では、国民の支持など得られようはずもない。

 県が今後も国による改良工事の設計変更を承認しない場合、国が代わりに承認する「代執行」に向けた手続きも可能となる。しかしそんなやり方では沖縄との関係が取り返しのつかないほど亀裂を深めることになろう。

 重い基地負担に耐えてきた沖縄県民の理解を得られるよう努めるのが岸田政権の取るべき道だ。いかにして将来の基地負担軽減を図っていくのか―。岸田首相自ら県民と向き合う時だ。