《論説》 日米韓首脳会談 緊張緩和へ外交努力を

2023年8月20日 山陰中央新報

 岸田文雄首相はバイデン米大統領、尹錫悦(ユンソンニョル)韓国大統領と米ワシントン近郊の大統領山荘キャンプデービッドで会談し、共通の価値観に基づく3カ国連携を打ち出す「キャンプデービッド原則」で合意した。

 「日米韓パートナーシップの新時代」を宣言する共同声明では、安全保障協力を「新たな高みに引き上げる」ため、首脳や担当閣僚らが少なくとも年1回会談。サイバーや人工知能(AI)、経済安保など幅広い分野での連携も確認した。

 日米韓の連携はこれまで核・ミサイル開発を進める北朝鮮への対応が主軸だった。だが、今回の「原則」は、「共通の価値観に基づく自由で開かれたインド太平洋」「国際社会の安全と繁栄に不可欠な台湾海峡の平和と安定の重要性」を明記している。覇権主義的な行動を強める中国に対抗する戦略的な連携を確認する狙いは明らかだろう。

 これに対して中国は「アジア太平洋地域を地政学的争いの場としてはならない」と反発する一方、中国とロシア両軍は太平洋や日本海で軍事演習を繰り返し実施してきた。朝鮮戦争の休戦協定締結70年を迎えて先日、北朝鮮で行われた軍事パレードには、中ロ両国の代表団が出席して結束をアピールした。

 日米韓の首脳が国際会議以外の場で3者会談を行うのは初めてだ。岸田首相は「戦略的連携を強化する歴史的な機会」と強調する。

 しかし、この会談を日米韓と中ロ朝の対立の構図を決定づける「歴史的」な会談としてはならない。軍事的な対立は地域の不安を増幅させている。衝突は破滅的な事態を招く。緊張緩和に向けた粘り強い外交努力を各国に求めたい。

 専制主義国家の行動が国際社会の不安定要因となっているのは確かだ。軍拡や海洋進出を続ける中国、ミサイル発射を繰り返す北朝鮮、まさにウクライナを侵攻しているロシアにどう対処するかは喫緊の課題だ。日米韓が情報共有の強化を確認したのは妥当だろう。

 だが、国際社会は「新冷戦」という二分化で割り切れるほど単純ではない。米国、中国、日本は巨大な貿易相手国であり、互いの経済状況はすぐに反響し合う。朝鮮半島の非核化を目指す国際社会の目標は変わっていないはずだ。ロシアのウクライナ侵攻が世界経済に与えている影響も深刻である。気候変動などの国際的共通課題も抱える。対立を超えた「共通の利益」を見いだす道を目指したい。

 米国は米中首脳会談実現に向けて中国との高官協議を重ねており、北朝鮮にも首脳会談を持ちかけた。日本も中国と「建設的で安定的な関係を目指す」方針で、岸田首相は訪中にも意欲を示している。その具体化に取り組むべきだ。

 共同声明以外に「原則」と銘打った新文書で演出した連携はもろさの裏返しとも言える。3カ国首脳会談の実現は、韓国の尹大統領が日韓関係の改善を進めたからだ。

 しかし、尹氏の国内基盤は盤石とは言い難い。バイデン氏の大統領選再選も定かではない。首脳交代も想定した「原則」とも言えるが、堅持される保証はない。

 岸田首相は日米首脳会談で最先端ミサイルの共同開発を決めたが、防衛力強化が国内で十分な理解を得ているのか。各国とも国内の理解を固める努力が求められている。