《社説》 日米韓の結束 地域安定に資す連携へ

2023年8月20日 朝日新聞

 力の論理が幅を利かせる時代だからこそ、自由や民主主義の価値観を共有する日米韓が結束する意義は大きい。だが覇を争う陣営づくりと化せば、かえって緊張は悪化するだろう。地域の安定に資す連携にするための一層の努力が必要だ。

 岸田首相が、米ワシントン郊外の大統領専用の山荘「キャンプデービッド」で、米国のバイデン大統領、韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領と会談した。3首脳が国際会議などに合わせず、会談を目的に集まるのは初めてだ。

 会談では、日米韓の安全保障協力を「新たな高みへ引き上げる」ことで一致。首脳同士が少なくとも年1回集まるほか、様々な分野の高官協議を毎年開くことなどで合意した。誰が政権を担うかで連携が揺れてきた反省をふまえ、制度として確立させる狙いがあるのだろう。

 喫緊の課題は北朝鮮への対応だ。3カ国がリアルタイムでミサイル情報の共有を進めることは日本の安全にも直結する。北朝鮮のサイバー活動への対抗策強化は、核・ミサイル開発の資金源を封じる取り組みとして注目に値しよう。

 ただ、圧力一辺倒では解決しなかったこれまでの経緯にも学ぶべきだ。前提条件なしでの対話再開が共同声明に盛り込まれたが、日米韓で協力して交渉の道を探ってほしい。

 3カ国の結束強化の真のねらいが、軍事的に台頭する中国への対応であるのは明白だ。共同声明は、中国軍の動きが活発化する台湾海峡の平和と安定の重要性を再確認した。

 だが、米国が中国との「戦略的競争」に大きくカジを切る一方で、地理的、経済的な結びつきが強い韓国は、中国とのあからさまな対立を避けたいのが本音だ。日本も、中国と経済的に深く結びついている。

 各国が中国との個別の利害を抱えるなかで対決姿勢に傾斜すれば、かえって足並みの乱れを誘発しかねない。大局的な目標が、中国への対抗ではなく、地域の安定であることを見失わないでもらいたい。

 日米韓首脳はインド太平洋地域への関与でも連携していくことで一致した。だが、東南アジア諸国連合(ASEAN)の国々は米中対立に巻き込まれることを警戒し、非同盟を貫くインドも「踏み絵」を迫られる手法は好まない。先走る米国の説得役も日韓には期待されよう。

 今回の会談は、徴用工問題をめぐり日韓の関係改善が進んだことで実現した。だが尹大統領が記者会見で認めたように韓国には政権の対応への反対論が根強い。足元の隣国関係をさらに堅固にしていく地道な努力も、日韓は怠ってはならない。