《コラム》 6月実質賃金1.6%減、15カ月連続マイナスで減少幅も拡大
          氏兼敬子によるストーリー

2023年8月8日 ブルームバーグ

 物価変動の影響を除いた6月の実質賃金は、15カ月連続で前年割れとなり、減少幅も前月から拡大した。2023年春闘の好調な結果が反映される中、基本給に当たる所定内給与や賞与など特別給与の増加が名目賃金を押し上げたものの、物価高に賃金の伸びが追いつかない状況が続いている。

 厚生労働省が8日発表した毎月勤労統計調査(速報)によると、実質賃金は前年同月比1.6%減。マイナス幅は前月の0.9%減から拡大し、市場予想(0.9%減)よりも大きかった。名目賃金に相当する1人当たりの現金給与総額は2.3%増の46万2040円と18カ月連続で増加したものの、伸び率は市場予想(3.0%増)を下回った。所定内給与は1.4%増。ボーナスなど「特別に支払われた給与」は3.5%増だった。

実質賃金はマイナス幅拡大 | 名目賃金も予想下回る

 日本銀行は先月の金融政策決定会合でイールドカーブコントロール(YCC、長短金利操作)政策の運用柔軟化を決定。植田和男総裁は会合後の記者会見で、「企業の賃金・価格設定行動に変化の兆しがうかがわれ、予想物価上昇率も再び上昇する動きが見られる」と指摘した。物価と賃金の好循環を目指す日銀は、実質賃金が伸び悩む中、慎重な金融政策運営を迫られることになる。

 明治安田総合研究所の小玉祐一チーフエコノミストは、「まだ賃上げが反映されている過程」とした上で、10月以降に物価がピークアウトし、実質賃金がプラスになると予想する。一方で、日銀は賃金上昇がトレンドとして定着するのを見極めるために、来年の春闘の結果を待たなければならないと指摘。YCCの柔軟化後、日銀が年内に金融政策の修正に動くことはないとみている。

 実質賃金の算出に用いられる持ち家の帰属家賃を除く消費者物価指数(CPI)は6月に3.9%上昇と、5月(3.8%上昇)から伸びが拡大。企業による価格転嫁の動きを背景に基調的なインフレ圧力は依然として根強いことが示された。ただ、伸び率は1月(5.1%)をピークに鈍化傾向にある。

 今年の春闘で賃上げ率が30年ぶりの高水準となる中、最低賃金も引き上げられる見通しだ。厚生労働相の諮問機関である中央最低賃金審議会は先月28日、23年度の最低賃金額改定の目安についての答申を取りまとめ、全国平均で時給1002円にすると明らかにした。現在の961円に対し引き上げ幅は41円となり、1978年度の現制度開始以降、最高額となる。

 連合が先月発表した23年春闘の最終集計によると、平均賃上げ率は3.58%と、1993年以来の高い伸びとなった。このうち毎月の基本給を引き上げるベースアップは2.12%だった。

 一方、総務省が8日発表した家計調査によると、6月の消費支出(2人以上の世帯)は物価変動を除いた実質ベースで前年同月比4.2%減と、4カ月連続で前年を下回った。減少幅は前月(4.0%)から拡大し、市場予想(3.8%減)よりも大きかった。