《社説》 最低賃金 生活守る底上げさらに

2023年7月30日 朝日新聞

 厚生労働省の審議会が、今年度の最低賃金の目安を示した。全国の加重平均は時給1,002円で、昨年度より41円高い。ただそれでも、週40時間働いて年収200万円程度の水準であり、他国にも見劣りする。地域間格差の是正も含め、底上げを続ける必要がある。

 審議会で最大の焦点になったのは、昨年から続く物価上昇の生活への影響だ。「労働者の生計費を重視した目安額」が必要との判断が、過去最大の引き上げを後押しした。目安通りに上がれば、政府目標の「1千円」を初めて超える。

 とはいえ、引き上げ率4.3%は、生計費の指標になる物価指数の足元の伸びを若干上回る程度に過ぎない。物価高による目減りを補うのは最低条件であり、それだけでは、最低賃金に近い水準で働く人たちの暮らしの底上げには力不足だ。1千円を上回ったからといって、満足はできない。

 地域間の格差も広がったままだ。今回の目安通りに引き上げても、実際に時給1千円以上になるのは東京、神奈川、大阪などの8都府県で、17県は時給800円台にとどまる。最も高い東京都と、最も低い沖縄県などとの差は221円で、昨年度より拡大した。

 実際の最低賃金は、この目安をもとに地方の審議会でこれから議論される。昨年度は、最低賃金の低い地域を中心に、22道県で目安を超えた引き上げが決まった。今年度も、地域の実情に応じて、より高い水準を目指してほしい。

 審議会の「目安に関する小委員会」の報告書は、継続的な賃上げに向けて中小・小規模事業者への支援強化が必要だと指摘した。生産性向上や賃上げに取り組む事業者への助成金の拡充や、労務費・原材料費などのコスト上昇分の価格転嫁対策の強化を政府に要望している。

 同様の施策は従来も取られてきたが、成果に結びついているのか。しっかり検証し、実効性を高めることが必要だ。

 政府は今後、時給1千円を達成後の最低賃金引き上げの方針について議論するという。諸外国の取り組みも参考に、めざす方向性、目標を掲げることは、企業の予見性を高め、生産性向上などの取り組みを促すことにも資するだろう。

 実際、この間の「1千円」の目標は、引き上げにあたって一定の推進力になってきた。ただ同時に、当事者である労使が、最低賃金の役割やあるべき水準について議論を深め、さらなる引き上げに向けて広く合意を得ていくことも重要だ。誰もが安心して暮らせる賃金を得られる社会へ、歩みを進めたい。