《社説》 憲法記念日 時代の変化踏まえ議論を急げ

2023年5月3日 読売新聞

◆国会議員の任期延長は選択肢だ◆

 憲法はきょう、施行から76年を迎えた。時代や安全保障環境の変化を踏まえ、最高法規のあり方を建設的に論じ合い、必要な部分については改めなければならない。

 日本は、国民主権、基本的人権の尊重や平和主義という憲法の基本理念のもと、安定と経済的な繁栄を享受してきた。一方、ロシアによるウクライナ侵略や感染症の蔓延(まんえん) 、大規模災害など、想定を超える事態が次々に起きている。日本を含めて、国際社会は、こうした危機に迅速に対処することを迫られている。

◆想定外の事態次々に

 激動の時代にあって、戦後一度も改正されたことがない憲法のもとで適切な対応ができるのか。読売新聞社の世論調査によると、憲法改正に肯定的な人は前年比1ポイント増の61%となり、2年連続で6割に達した。

 東日本大震災や国際情勢の変化、新型コロナウイルス禍を経験し、憲法の規定を守っているだけでは特異な状況に対応できないという意識が、国民の間に広がっている。こうした世論の変化も、国会での憲法論議を加速させているのだろう。今国会では既に衆院の憲法審査会が9回、参院の審査会は3回開かれた。与野党が精力的に討議を重ねていることは評価できる。

 各党が取り上げているテーマの一つが、緊急事態への対応だ。

 自民党や公明党は、衆院解散や任期満了選挙と重なって、武力攻撃や大規模災害などが起きた場合でも、国会の機能を維持するため、議員任期を延長できる規定が必要だと主張している。

 日本維新の会と国民民主党なども共同で、こうした不測の事態には、議員任期を6か月間延長できる条文案をとりまとめた。一方、立憲民主党は、そうした事態になっても、憲法54条2項の「参院の緊急集会」の規定で対応できると主張している。

 憲法は緊急集会について、「国に緊急の必要があるとき」に内閣が開催を求めることができる、としている。ただ、この規定は衆院解散中に関するもので、長期の緊急事態は念頭に置いていない。緊急時にこそ、法律の制定や予算の承認などを適切に行う必要性は高い。どのような事態でも、立法府が役割を果たせるようにしておく必要がある。9条改正に関しては、自民党が衆院の審査会で論点整理を提示した。自衛隊の明記や文民統制の規定などの議論を求める内容だ。本来の防衛任務はもとより、邦人保護や国際貢献など、自衛隊の役割が増している。その存在を憲法に明記する意義は大きい。

 だが、9条改正の議論は低調だ。2015年に安全保障関連法が成立し、集団的自衛権の限定的な行使が可能になった。これにより日米同盟が深化し、自衛隊の対処能力も向上したことが、議論の優先度を下げている側面もあろう。

◆投票価値に固執するな

 近年、「法の下の平等」を重視する司法の要請を踏まえ、衆参両院は「1票の格差」を是正する選挙制度改革を進めてきた。だが、地方から都市への人口流入で、今後も格差は拡大する見通しだ。「法の下の平等」を投票価値の平等と読み替え、厳格な格差是正を行えば、地方の議員は減り続けることになる。こうした問題を解消するためには、自民党が18年にまとめた改正案のように、参院議員を「地方代表」に位置づけるのも一案だ。

 世論調査では、衆院の選挙制度について、「1票の格差にこだわる必要はない」と答えた人が52%で、「格差の是正を重視する方がよい」の42%を上回った。地方の声が国政に反映されなくなることを懸念する人が多いのだろう。与野党は選挙制度のあり方を論じるとともに、衆参の役割分担について積極的に議論すべきだ。

◆基本理念を脅かすAI

 人工知能(AI)など新しい技術が開発され、利便性は高まっている。一方で、AIの過度の活用は、基本的人権や個人の尊重といった憲法の規定を脅かしかねない、といった指摘も出ている。不透明な基準でAIが信用情報を集め、個人の信頼度を判断するのは健全とは言えまい。

 また、政府の国会答弁を、自然な文章を作り出す生成AI「チャットGPT」に作成させることになれば、立法権をAIに委ねることになりかねない。国権の最高機関の役割はないがしろにされる。

 改正論議とは別に、先端技術の規制に関して、憲法の理念に立ち返って議論することが大切だ。