(社説)核会議の決裂 保有国は独善自戒せよ

2022年8月30日 朝日新聞

 人類の破局を避けるために積み重ねた国際議論の成果が、一国の独善に阻まれた。この暴挙は最大限の非難に値する。

 核不拡散条約(NPT)の再検討会議が、最終文書案を採択できずに終わった。全会一致が原則のなか、最終盤でロシアが反対したためだ。

 この条約は冷戦期以降、核をめぐる国際ルールの支柱だ。その効果を守ろうと191の国と地域が4週間討議したが、前回2015年の会議に続き、合意をまとめられなかった。

 国際社会や被爆者らの切実な願いを砕き、核廃絶への道程をいっそう険しくする結果と言わざるをえない。

 会議でロシアは、自らが占拠するウクライナの原発をめぐる文言を拒んだという。違法な侵略と核の脅しをおかした国が会議までも決裂させたのは、二重の蛮行と言うべきだ。

 ただ、経緯をたどれば、不拡散体制の機能不全をもたらしたのはロシアだけではない。条約は米ロ英仏中に核保有を認める一方、軍縮義務を課している。なのに5カ国は近年、核の近代化と軍拡に傾いている。

 この会議でも、大国が縛りを嫌う姿勢が目立った。核攻撃されない限り核を使わない「先制不使用」などを非保有国は求めたが、次々削られた。内容の乏しい文書案が採択されても会議は失敗だったとの批判もある。

 いまや冷戦期以上に核戦争の恐れが指摘されている。4年後の再検討会議まで手をこまぬいている余裕はない。

 米ロ英仏中は今年1月、「核戦争に勝者はいない」との共同声明を出した。今回の会議の文書案にもそれが盛り込まれた。核保有国が自ら認めた責任を思い起こし、核軍縮の責務を果たさねばならない。

 とりわけ世界の核弾頭の9割を持つ米ロの責任は重い。26年に期限を迎える新戦略兵器削減条約に代わる枠組みに向け交渉を進めるべきだ。非保有国は、昨年発効した核兵器禁止条約の批准国を増やし、国際世論の圧力を高めていきたい。

 岸田首相は会議終了後もなお、不拡散条約が唯一の現実的な道だと述べた。だが、その条約枠組みが立ち往生している現実から目を背けてはなるまい。不拡散条約と併存する核禁条約の意義を認め、重層的な方策で核廃絶をめざすべきだ。

 11月に国際賢人会議、来年5月にはG7首脳会議が、ともに広島で開かれる。核保有国と非保有国の溝を埋め、核の脅威を減じていくには国際政治での骨の折れる調整作業が必要だ。

 核軍縮をライフワークに掲げる首相に、真剣かつ実効性のある取り組みを求める。