(論説)【原発新増設】福島県の教訓忘れるな

2022年8月26日 福島民報

 政府は二十四日、次世代型原発の開発と建設を検討する方針を明らかにした。東京電力福島第一原発事故を受け、原発の新増設やリプレース(建て替え)は想定しないとしてきたエネルギー政策の転換を意味する。資源が乏しい日本で、電力の安定供給と脱炭素を進めるための策とはいえ、唐突感は否めない。

 昨年十月に閣議決定されたエネルギー基本計画は、福島第一原発事故の反省から「可能な限り原発依存度を低減する」との従来方針を維持した。今月十日の内閣改造で就任した西村康稔経済産業相は新増設に関し、「現時点で想定しない」と述べたばかりではないか。ロシアがウクライナに侵攻した影響による原油価格や電気料金高騰などの状況を踏まえたとしても、安全面などの課題が山積する中で方針転換を急げば、エネルギー問題に対する国民の理解を一層難しくするだけだ。

 次世代型は、既存の原子炉をベースに安全性を高めた原発で、経産省は二〇三〇年代半ばに運転を開始する工程表のイメージを先に公表している。開発、建設には長い期間と巨額の費用を要する。原発の再稼働を進めつつ、最長六十年としてきた運転期間の延長も検討しながら「原発回帰」にかじを切る構えとみられる。

 福島第一原発事故の発生前、立地地域では子どもから高齢者まで、さまざまな場で原発は安全だと説明を受けてきた。事故が起きて「安全神話」は崩れ、十一年を経た今も多くの県民が避難を強いられている。

 原発は国策で推進されたにもかかわらず、国の責任のあいまいさが幾多の訴訟の場などで取りざたされてきた。廃炉の過程でたまり続ける処理水は県民の理解が広がったとは言えない中で、海洋放出に向けた作業が先行して進む。使用済み核燃料の再処理で発生する高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の処分を巡っては、国が前面に立つと強調しながら、見通しは何ら立っていない。

 技術的な安全性を説くだけでは理解に至らないことは、原発事故の経験から明らかだ。政府が新増設やリプレースを打ち出すのであれば、広く信頼を得る道筋を明確に示す必要がある。

 エネルギー基本計画は太陽光、風力をはじめ再生可能エネルギーを主力電源に位置付けている。原発事故の教訓が置き去りにされ、原発回帰で再エネへの投資が滞る事態を憂慮する。水素やアンモニアなどを含め、多様なエネルギー普及の手だても同時に示すべきだ。(渡部 育夫)