(社説)原発新増設は安全重視で着実に進めよ

2022年8月24日 日本経済新聞

 政府が原子力発電所の新設や増設へ一歩踏み出す。岸田文雄首相が24日、次世代の原子炉の建設検討を指示し、新増設はしないという従来方針を転換した。現実的な判断であり、国民の理解を得ながら着実に進めてほしい。

 新増設に関して、政府はこれまで議論すら避けてきた。しかし、温暖化ガス削減とエネルギー安定供給を両立させるうえで、原発の役割は無視できない。

 国内に原子炉は33基あるが、現在稼働中なのは6基だけだ。太陽光など再生可能エネルギーの導入は拡大しているが、それだけでは電力需要を賄いきれない。

 温暖化ガスの排出が多い石炭火力も増やしづらい。今年3月には寒さと雪の影響で、6月には異常高温のために、首都圏などで電力需給が綱渡り状態となった。

 加えて、ウクライナ侵攻に対する制裁を受けてロシアが天然ガス供給を絞っている。需給逼迫リスクは増大する恐れがある。

 まず、安全審査を通った17基すべてを早期に動かす必要がある。避難計画づくりの難航やテロ対策をめぐる電力会社の不祥事が再稼働を遅らせており、政府が前面に立って信頼回復と事態の打開に努めるべきだ。

 原子炉等規制法は運転期間を原則40年と定め、一度だけ20年間延長できるとしている。延長しても2040年以降は使える原発が大幅に減る。

 もともと運転期間に科学的根拠はない。多くの原子炉は主要な機器や部品を交換ずみであり、実質的な安全性を重視した柔軟な対応を検討すべきだ。

 並行して新増設の計画を詰める必要がある。政府は温暖化ガス排出を30年度に13年度比で46%減らし、50年に実質ゼロとする目標を掲げる。達成には、原発を一定程度使い続けざるを得ない。

 技術が確立した軽水炉を基本とし、安全性を高めた型が使いやすいだろう。審査基準も最新型に対応して見直すなど、事故対策に万全を期すのが新増設の条件だ。

 東京電力福島第1原発事故以来、国民が原発に注ぐ視線は厳しい。建設や廃炉の費用を考えると経済的な優位性も薄れている。

 それだけに、政府は原発を推進する根拠を丁寧に説明する必要がある。使用済み核燃料を地下深くに埋める地層処分や、核燃料サイクルのあり方など、未解決の問題も放置してはならない。