(社説)処理水の放出 説明と対話 尽くさねば

2022年8月17日 朝日新聞

 東京電力福島第一原発から出る処理水の海への放出に向けた動きが進んでいる。地元自治体は放出施設の工事を認めたが、漁業者らからの反対も根強い。東電や政府は、地元や国内外への説明を尽くし、対話する努力を惜しんではならない。

 福島第一原発では、溶け落ちた核燃料を冷やす水に地下水などが加わり、汚染された水が1日に約130トン増え続けている。大半の放射性物質を取り除いてタンクで保管中だ。

 既存のタンクは満杯に近づき、増設を続ければ事故処理作業に影響が出かねないとして、政府は昨年春に海水で薄めた処理水の放出を決めた。原発の1キロ沖合で放水する準備を東電が進めている。

 先月には、原子力規制委員会が「安全性に問題はない」として計画を認可した。更田豊志委員長は記者会見で「反対は理解できるが、廃炉を前に進めるためには海洋放出は避けて通れない」と話した。

 処理水に残る放射性物質のトリチウムは、稼働中の内外の原発も海などに流している。今回の計画では国の基準の40分の1未満に薄め、年間放出量を事故前の目標以下にする。国際原子力機関は、4月の報告書で、海洋放出による放射線の影響は「規制当局が定める水準より大幅に小さいと予測していることが確認された」とした。

 福島県と原発がある大熊、双葉町は今月初め、放出施設の着工を了解した。東電は、翌々日から放出に使う海底トンネルなどの本格的な工事を始めた。

 一方で、漁業者らは計画に納得していない。基準以下にしても、事故原発からの放出には不安が残り、風評被害が懸念されるからだ。規制委の意見公募には、さまざまな疑問や反対の声も寄せられた。

 政府と東電は15年に「関係者の理解なしには、いかなる処分もしない」と漁業者に約束した。なし崩し的に放出を進めることは許されない。

 東電は「しっかりと説明を尽くすことが大事」としてウェブサイトなどで情報を届けるという。透明性を高め、疑問に答えるのは当然だ。しかしその一方で、自治体の了承後直ちに工事を進めるような日程優先の姿勢では、説得力を欠く。

 本気で関係者の理解を得ようとするのであれば、疑問や反対の意見を直接聞き、対話を重ねることが必要だ。東電は未曽有の事故を起こし、賠償も不十分で、他の原発でも不祥事を重ねた。いっそうの努力抜きに、地元との信頼関係が築けるだろうか。社長ら経営幹部が漁業者や市民らと、ひざを交えて語ることも考えるべきではないか。