(社説)鉄道政策の転換 JR35年の総括必要だ

2022年8月14日 北海道新聞

 国鉄分割民営化から35年がたった今年、JR各社のあり方を巡り国の政策転換が相次いでいる。

 赤字ローカル線の存廃方針を決める地域協議会を国主導でつくるほか、自治体の同意があれば運賃値上げできる制度を導入する。

 JR貨物に対しては、旅客各社に支払う線路使用料の軽減策見直しに言及した。貨物新幹線の実現に向けた議論も年度内に始める。

 民営化の基本構造は大都市圏や新幹線の旅客収入などで収益を上げ、不採算の地方路線や貨物を支えるものだ。脆弱(ぜいじゃく)なJR北海道などには経営安定基金を設けた。

 コロナ禍の需要減でJR本州3社ですら赤字に転落し、この前提が崩れた。共倒れの危機である。

 小手先の制度変更で終わらせてはならない。国は国鉄改革の失敗を認め、35年間を総括すべきだ。

 赤字路線対策は国土交通省の有識者会議が先月提言した。1キロメートルあたりの1日利用数が千人未満などの線区で協議会を設置する。

 6年前にJR北海道が10路線13区間の維持困難路線に示したのと同じ手法だ。道内では200人未満の5区間には廃止を求めた。

 だが今回は廃止を前提とせず、自治体が鉄道施設を管理する「上下分離方式」での存続や専用道路を使うバス高速輸送システム(BRT)などへの転換も検討する。

 国鉄民営化による効率経営で鉄道網維持は可能だったはずだ。JR本州3社や九州の株式上場時に国が「営業路線の適切な維持」を条件にしたことでも分かる。

 その建前を覆した上に各協議会の結論を3年以内に出すという。提言後にJR東日本は赤字区間を公表し苦境を訴えたが、黒字路線の実態も併せて示すのが筋だ。

 国は道内路線について地元任せで冷淡な扱いだった。これを機に優先し協議を本格化してほしい。

 一方でJR貨物はネット通販増やトラック運転手不足で優位な環境ながら経営自立に程遠い。優遇策頼みで、顧客ニーズを捉える企業努力の弱さも指摘される。

 輸送量拡大策に国交省の検討会が掲げたのが貨物新幹線だ。特に青函トンネルでは在来線の貨物列車安全運行のため新幹線が減速し、時間短縮の障害となっていた。

 貨物新幹線構想はこの20年間、何度も浮上したが関係者が折り合わず頓挫した。国が乗り出すのが遅すぎたと言わざるを得ない。

 ただ貨物輸送が新幹線にシフトすると在来線廃止が進む恐れもある。短期の収益性でなく鉄道網維持が基本だと肝に銘じてほしい。