(社説)処理水計画の了承/理解得られる行動に努めよ

2022年8月4日 福島民友新聞

 東京電力福島第1原発で発生する処理水の海洋放出方針を巡り、内堀雅雄知事と第1原発が立地する大熊町の吉田淳町長、双葉町の伊沢史朗町長が、処理水放出設備の設置に向けた東電の計画を了承した。東電はきのう、海底トンネルなどの本体工事をきょうから開始すると発表した。

 東電と国が目標とする来春の海洋放出に向けた工程は、本体工事の着手という節目を迎えた。しかし漁業者らが断固反対の姿勢を崩していないだけでなく、これから計画通りに工事を進めて、完了させても、「国民の理解」を前提とした放出は現状では無理だ。

 東電は、地元の了承を得られた2日後に工事を始めるという。県と立地町が了承する際、要請された8項目の要求事項などを十分に精査し、組織内で徹底するよう意思の疎通を図ることはできたのだろうか。「工事最優先」と見られかねない姿が、海洋放出に反対している人たちの不信感を増幅させてきたのではなかったか。

 東電は今後の気象や海の状況次第で放出開始が来年夏ごろに遅れる可能性を示した。工事を急ぐばかりに、最も大切な「理解」を得ることが難しくなるような事態はあってはならない。

 処理水を巡っては、タンクの地震計が適切に揺れを記録できるかを評価せず、不適切な場所に設置されていたことが判明したばかりだ。廃炉の工程を優先し、地震計の設置前の検討などを十分に行わなかったことが原因だ。安全性や透明性の確保をないがしろにした行為は許されない。東電と国は改めてそのことを自覚すべきだ。

 風評を招かないよう、全国の消費者の理解醸成も欠かせない。伊沢町長は「消費者の不安の原因を解明する努力を常にしていく必要がある」と、国と東電に取り組みを求めている。

 復興庁が今年実施した調査で、海洋放出について国内の約6割が知らなかった。そもそも多くの国民が計画自体を知らないなかで、計画を周知し、安全性などを伝えていくことが、これから国、東電の果たすべき重要な使命だ。

 そのためには国民や消費者がどのような点に不安を抱き、買い控えなどの行動に移るのかを十分に把握することが急務だ。消費者心理などについて詳細な分析を進めなければならない。

 流通はさらに複雑で、業者は消費者心理を読んで産地を決める。影響を食い止めるために、国には流通業者や飲食業界に広く協力を求めた風評打開策を強力に展開することが求められる。