(社説)最低賃金上げ 物価高への対応十分か

2022年8月3日 東京新聞

 2022年度最低賃金(最賃)を巡り、厚生労働省の審議会が全国平均で31円引き上げ、時給961円(引き上げ率3.3%)とする目安をまとめた。

 昨年の引き上げ額28円を上回ったが、最賃に近い時給で働く非正規雇用者の生活を支え、急激な物価高を乗り越えるには十分なのか。中小企業の経営を支えつつ、さらなる増額を目指したい。

 政府は最賃について「早期の全国加重平均千円の実現」を掲げている。コロナ禍の影響を受けた20年度を除き、最近は3%程度の引き上げが続いていた。

 今年も年初から、最賃引き上げ容認の動きは広がっていた。

 日本商工会議所が2月、全国の中小企業約6千社を対象に行った調査では、最賃を「引き上げるべきだ」と答えた企業は41.7%と前年に比べて13.6ポイント増えた。

 不足する人材の確保には、賃上げが欠かせないと考える中小企業が増えたからだろう。

 しかし、その後の物価高で仕入れコストが上昇し、経営側は一転最賃引き上げに慎重になった。

 審議会で労使は、引き上げの必要性で一致したものの、引き上げ幅に隔たりがあり調整が難航。7月下旬の4回目では決着せず、5回目でようやく合意に達した。

 22年度の消費者物価指数は前年度比2.6%上昇する見通しで8年ぶりの高水準。増税の影響を除くと31年ぶりの高さだ。

 物価高が生活に与える影響は低所得者層ほど深刻で、賃金の底上げにつながる最賃制度の役割はより重要となる。今回の31円の引き上げ額が物価高に十分に対応したものか、不断に検証する必要があるだろう。

 中小企業が賃上げに耐えられる経営環境づくりも急務となる。中小企業が大企業との取引で賃上げ分を価格に転嫁できるよう、政府や自治体は取引価格の監視や相談窓口の強化、賃上げ実施企業への経営支援を強化すべきである。

 最賃額は地域間で格差があり、賃金の高い都市部に人材が流出する要因ともなっている。地方で働く人材を確保し、地域経済を支えるためにも、都市部と地方との格差是正は依然、課題だ。

 今後、地方審議会が都道府県ごとに最賃の引き上げ幅を決める。物価高に対応しつつ、都市部と地方との格差を是正するさらなる方策を講じていく必要がある。