(社説)アマゾン配達員の労組 働き方の変化に対策急務

2022年7月18日 毎日新聞

 企業が収益を優先し、働き手を犠牲にしているのなら問題だ。労働市場の変化を踏まえた対策を講じる必要がある。

 アマゾンジャパンの業務を請け負っている配達員10人が、待遇改善を求めて労働組合を結成した。

 下請け企業と業務委託契約を結んで配達を受注している個人事業主だ。ただ、業務の具体的な指示はアマゾンから受けている。

 こうした働き方は近年急増している。働く時間や場所を自由に選べるためだ。企業も社会保険料などの負担を軽減できる。

 一方で、雇用に近い実態にもかかわらず、長時間労働の規制や最低賃金の保障といった労働者保護のルールは適用されない。

 アマゾンの場合、人工知能(AI)が効率的な配達個数やルートを決め、専用アプリで配達員に指示を送る。労組側は、AIが導入されて業務が増え、労働時間も延びたのに、報酬はほとんど変わらないと主張している。

 こうした労働形態では、AIが業務の指示だけでなく、評価に関わるケースがある。低いと判断されて、突然契約が打ち切られる事例もみられるという。

 報酬などの待遇や就労の安定性に大きく関わる問題だ。AIのアルゴリズム(計算手順)は妥当なのか、企業には説明責任を果たすことが求められる。

 配達員はアプリで勤務時間も管理されているという。それなら、雇用された従業員と変わらない。

 雇用か請負かあいまいなまま、発注元が有利な立場を乱用し、働き手に不利な就労条件を押しつけることがあってはならない。

 しかし、現行の労働法は新しい働き方に対応しきれていない。職場で上司から指示を受ける従来型の就労を前提としているためだ。

 どういう条件がそろえば従業員とみなし、団体交渉などの権利を認めるのか、実態に即したルールが求められる。

 欧米では、雇用と位置付けて労働者を保護する取り組みが広がっている。欧州連合(EU)では法整備の議論も進む。

 公正さに欠ける労働形態を放置すれば、賃金水準の低下といった形で労働市場全体に影響が及びかねない。政府は働き手を守る環境整備を急がなければならない。