(社説)参院選 エネルギー政策 脱炭素・脱原発の道を着実に

2022年7月6日 朝日新聞

 参院選では、与党と一部の野党が、原発再稼働の主張を強めている。選挙結果次第で政策が大きく動きかねない。投票にあたって熟慮が必要だ。

 長い目で見れば、国産資源である再生可能エネルギーの役割は、エネルギー安全保障の点でも一段と増す。11年前の原発事故の教訓は、ゆるがせにはできない。当面の課題への対応は必要としても、めざすべき社会への道筋を見失ってはならない。

 ■主軸は再エネ拡大

 地球温暖化の科学的裏付けが強まるにつれ、各国で脱炭素の流れが加速してきた。なかでも二酸化炭素排出が多い石炭は、利用の削減が急務とされた。ところが、ロシアの侵略以降、天然ガスや石油の供給体制が揺らぎ、各国が政策の見直しを強いられている。

 エネルギー自給率が1割と低い日本も影響を免れていない。異例の猛暑もあって電力需給の逼迫(ひっぱく)も起きた。供給力の確保に向け、電力システムの改革も喫緊の課題になっている。

 各党の公約も、当面の安定供給に重点を置くものが多い。ただ、原発の位置づけなど主要部分にあいまいさがあり、総じて場当たり的と言わざるを得ない。脱炭素の目標とする2050年の姿を描き、短期的な対処と、中長期の取り組みを整理した戦略を示すべきだ。

 脱炭素と安定供給の両立で主軸になるのは再エネだ。増やす余地が大きく、化石燃料の高騰でコスト面の優位も強まる。各党の公約も、優先的に取り組む方向性はおおむね一致する。

 歩みを加速するには、さらなるコスト低減、洋上風力や蓄電池の普及、送電網の強化、炭素税の導入といった課題もある。技術開発の促進や制度見直しなど具体策を競うべき局面だ。

 ■「出口」見通す必要

 とはいえ、再エネ中心の体制に一気にはたどりつけない。拡大の進み具合に応じて、火力や原子力の設備を古いものから段階的に廃止し、着実に依存度を減らしていくのが基本になる。

 供給が危機に陥ったときには、国民生活への打撃を和らげるため、既存のものに頼る局面が続くこともあるだろう。ただ、その場合も、限定的な「つなぎ」とはっきり位置づけ、本来の道に戻る「出口」もあわせて示す必要がある。

 なかでも原発をどう考えるべきか。最近の情勢を受け、再稼働の加速を求める声が強まる。だが、まだ運転を再開していない原発は、この夏冬にはあてにできないのが現実だ。原子力規制委員会の審査や所要の工事などが終わっていない。そのルールまで無視するのなら論外だ。

 中長期的にはどうか。

 原発は二酸化炭素を出さず、既存設備を動かせば足元の発電コストは下がるだろう。ただ、新設の場合は、政府の試算でも2030年に事業用の太陽光発電が原発より安くつくようになる。「経済性」の面でも原発の利点は限られる。

 何より忘れてはならないのは、東京電力福島第一原発の炉心溶融がまねいた惨禍である。原発は、ひとたび事故が起きれば、甚大で回復不能な被害をもたらす。地震や津波に加え、現実的な備えが見当たらない巨大噴火など、自然現象は未解明のことも多い。

 高レベル放射性廃棄物の扱いも答えが出ていない。処分地の見通しが立たず、そもそも日本では地下の長期安定性の確認にも限界がある。ウクライナ侵略で現実になった武力攻撃のリスクも直視すべきだ。

 ■なし崩しは許されず

 自民党は参院選の公約で、「安全が確認された原子力の最大限活用」とうたう。だが、国のエネルギー基本計画が掲げる「可能な限り依存度を低減」との整合性がはっきりしない。建て替えや新増設も認めるのか。国政選挙で基本的方向をあいまいにしたまま、なし崩しで「原発復権」を進めるような姿勢は、政権党として無責任だ。

 「原子力規制委の審査の効率化」「長期運転の方策を検討」との主張も危うさがある。独立性が高い規制委と「運転期間原則40年」ルールは、事故の教訓で設けられた。安全対策に妥協は許されない。

 一方、立憲民主党などは、公約で脱原発を訴える。再エネ主力化の進め方や火力発電の使い方で、さらに具体性や説得力が問われるだろう。

 石炭火力については、全廃の時期を示さない日本に厳しい視線が注がれてきた。与野党の多くが、二酸化炭素の排出を減らす新技術の導入を主張する。だが、実用化のハードルは高く、丁寧な議論が求められる。

 エネルギー問題は、暮らしと社会のかたちに深くかかわる。変革の道のりも長い。信頼に足る政策を見極めたい。