(社説)'22参院選 憲法改正 世論から必要性を見極めよ

2022年6月30日 河北新報

 日本国憲法の施行から75年の今年、改憲論議がにわかに活気づいた。昨年秋の衆院選では改憲派が勢力を伸ばし、新型コロナウイルス流行、ロシアのウクライナ侵攻といった世界情勢も国会論戦に拍車をかけた。心しておきたいのは国の最高法規の改正はいっときの雰囲気ではなく、国民の自由闊達(かったつ)な討議を経て臨むのが肝要ということである。

 改憲を党是とする自民は2018年3月、改正すべき4項目の条文イメージを提示した。参院選前に公表した22年の政策集にも盛り込んだ。

 内容は(1)現行9条1、2項を堅持しつつ、自衛隊の保持を明記する(2)大規模災害発生などの緊急事態時に国会、内閣機能を維持・強化する(3)参院の合区を解消し、各都道府県から1人以上を選出する(4)教育の重要性を国の理念とし、誰もがその機会を享受できるようにする-を掲げる。

 この1年で、自民にとって好機と言える環境が整ったことは間違いない。「加憲」を唱える公明党と連立政権を維持して迎えた衆院選では、改憲に前向きな日本維新の会、国民民主党が伸長した。

 この改憲勢力4党は、衆参両院で国会発議に必要な3分の2以上を占める。コロナ禍、ロシアの動向などを見据え、衆院では2月以降、憲法審査会が予算委員会と並行して週1回のペースで開かれたことは特筆すべきだろう。

 改憲に執着した安倍晋三元首相と異なり、リベラル色の強い派閥「宏池会」会長の岸田文雄首相(自民党総裁)が改正の旗振り役となっていることも見逃せない。

 参院選を勝ち抜けば、25年夏の参院選、同年10月の衆院議員任期満了までの「黄金の3年」間、大型国政選挙はない。国会発議のタイミングを十二分に計ることができる。

 一方、国民の意識はどうか。共同通信社が憲法施行75年を前に実施した郵送方式による世論調査は、絶妙なバランス感覚が浮かび上がった。

 改憲の必要性の問いに、「ある」は「どちらかといえば」も含め計68%、「ない」「どちらかといえば」の合計は30%だった。改憲の機運が「高まっている(どちらかといえばを含む)」は計29%、「高まっていない(同)」は計70%。改憲論議を急ぐ必要性、9条改正の賛否は、ともに「ある」と「ない」が拮抗(きっこう)した。

 改憲の必要性は感じるが機運は高まっておらず、じっくりと考えたい-。国民のそんな意向が読み取れる。コロナ禍、ウクライナ危機前の憲法施行70年時の調査でも、改憲の必要性、9条改正の賛否は同様の傾向が表れていた。

 東京・永田町かいわいからは、「改憲が実現すれば岸田政権のレガシー(遺産)になる」との話が漏れ伝わる。政治家が歴史に名を刻む実績づくりのための憲法改正だとしたら本末転倒だ。国民の声に耳を傾けた結果の改憲論議でなければならない。