(社説)原発への回帰 前のめりは許されない '22参院選

2022年6月25日 東京新聞

 松江市の中国電力島根原発は全国でただ一つ、県庁所在地にある原発だ。国から避難計画の策定を義務付けられた三十キロ圏内には、約四十六万人が居住する。

 東京電力福島第一原発事故以来止まったままになっている島根原発2号機の再稼働に今月、島根県の丸山達也知事が同意した。  同意に際し、県議会で丸山知事は「不安と心配のない生活を実現するためには、原発はない方がよく、なくしていくべきだと私も考えています」と述べている。

 しかし一方で「原発が国のエネルギー政策の中で一定の役割を果たしているのは理解できる」。避難計画の実効性に不安を残したままの「苦渋の判断」だったという。

 もっとも再稼働は安全対策の遅れから、再来年以降になるもよう。電力逼迫(ひっぱく)が予想されるこの冬には間に合わない。

 主としてロシアのウクライナ侵攻に起因する石油や天然ガスの高騰を受け、脱炭素だけでなくエネルギー安全保障効果の高い電源として、政府・与党は「原発回帰」に前のめりの姿勢を強めている。

 岸田文雄首相は国会の答弁などで「安全の確認を前提として、原発再稼働をしっかりと進めていく」と強調してはいるものの、誰が安全を保証してくれるのか。原子力規制委員会の審査は、基準に適合するかどうかをみるだけだ。

 一方、福島第一原発事故の避難者が国に損害賠償を求めた裁判では、最高裁が「国に賠償責任はない」と判断した。「国策」と言いながら、保証も補償もないままに「原発神話」の復活を図るかのような政府の姿勢は危険である。

 名古屋大の竹内恒夫名誉教授(環境政策論)は「日本のロシア産エネルギーへの依存度は高くない。他の輸入先を探す外交努力で乗り切るべきだ。ウクライナ情勢をどうして原発再稼働に結び付けるのか、わからない」と疑問を投げかける。

 ウクライナ危機が浮き彫りにしたのはむしろ、有事の際に攻撃対象になりうる原発という存在の危うさである。エネルギー安全保障を図るとすれば、燃料を輸入する必要のない再生可能エネルギーこそ王道だ。「不安と心配のない生活」を実現するために、エネルギー源を選ぶ参院選にしたい。