(社説)核戦争回避の共同声明 5大国に軍縮進める責任
                               2022年1月5日 毎日新聞

 核兵器を保有する米露英仏中が、核戦争を回避する責務をうたった共同声明を出した。
 中国外務省によると、5カ国が一致して、核兵器に関する声明を出すのは初めてだ。核軍縮に向けた具体的な動きにつなげなければならない。
 声明は4日開幕予定だった核拡散防止条約(NPT)の再検討会議に向けて準備された。新型コロナウイルスの感染再拡大で会議は延期となったが、当初予定通り発表された。
「核戦争に勝者はおらず、戦うべきではない」との内容だ。軍拡競争を防ぐためには、2国間や多国間の合意を順守することが重要とも明記した。
 1970年に発効したNPTは、5カ国に限って核保有を認めている。その代わりに核軍縮交渉を進める義務を負う。
 だが、非保有国は、5カ国による核兵器削減の努力が不十分だと批判してきた。保有や開発を全面的に禁じる核兵器禁止条約が昨年発効した背景にも、こうした不満がある。
 実際、米露は2019年、中距離核戦力(INF)全廃条約を失効させ、小型核や極超音速滑空兵器の開発を進めている。米政府によると、中国は今後10年程度で核弾頭を倍増させるという。いずれも核軍縮に背を向ける動きだ。
 問題は、声明が防衛目的での核兵器保有を否定していないことだ。互いに核を持つことで戦争に歯止めをかける核抑止の論理に、こだわっていると言えよう。
 国連のグテレス事務総長は、5カ国が共通の考えを表明した点を評価しながらも、「核リスクを排除する唯一の方法は核兵器の全廃である」と強調している。
 保有国は声明で満足することなく、具体的な行動によって核軍縮への意思を示さなければならない。核戦争を回避するというなら、核の先制不使用を共同で宣言してはどうか。米露に中国を加えた新たな核軍縮の枠組みを構築する必要もある。
 3月には核禁条約の初の締約国会議が開かれる。NPT再検討会議も8月に予定されている。日本は今回の声明を足がかりに、「核なき世界」の実現に向けて国際的な指導力を発揮すべきだ。 
 (社説)核保有国声明 廃絶の誓い 行動でこそ
                               2022年1月6日 朝日新聞

 核兵器を持つ5大国が互いに戦争をしないと誓ったのは前進だ。だが、また口約束に終わる疑念もぬぐえない。
 米ロ英仏中が、核保有国同士の戦争回避と、核軍縮や不拡散の重要性を確認する異例の共同声明を発表した。
 「核戦争に勝者はなく、決してその戦いはしてはならない」。声明が引くのは、冷戦時代に米国とソ連の首脳が合意した文言である。当時の米ソが核削減を結実させたように、問われるのは具体的な実行であろう。
 核不拡散条約(NPT)は、5カ国に核保有を認める代わりに、核軍縮の誠実な交渉を義務づけている。だが近年起きているのは、新技術を投じた大国間の核軍拡であり、核を使うハードルを下げる動きすらある。
 声明は、いまの核保有はあくまで防衛目的だというが、その当事国が自ら紛争の火種を生んでいる現実もある。
 南シナ海などで力による現状変更を試みる中国。隣国との国境に兵力を集めて威嚇するロシア。英国も中ロへの対抗で核軍備増強に動いている。
 そもそも5カ国は2000年のNPT再検討会議で、核兵器廃絶を達成する「明確な約束」をしたはずだ。だが今回の声明で、その言及はなかった。
 いくら「戦争をするつもりはない」と約束したところで、軍事的な緊張が高まれば、誤認などの不測の事態は起こりうる。核兵器をなくすしか破局を封じる方策はありえない。
 NPTの再検討会議は今月4日に開幕予定だったが、新型コロナで延期された。開催がいつであれ、5カ国から責任を持って言葉と行動を一致させる確約を取り付ける必要がある。
 NPTの枠外で核武装したインド、パキスタンやイスラエルのほか、条約脱退を宣言した北朝鮮の例もある。冷戦時代から国際安全保障の支柱だった核不拡散体制は揺らいでいる。
 その危機感を募らせた非核国が主導して生まれたのが、核兵器禁止条約だ。署名・批准の輪は広がって昨年発効した。初の締約国会議が3月にある。
 ふだんは国連安保理などで対立する米英仏と中ロが珍しく声をそろえ、軍縮の意義を表明したのは、核廃絶を求める国際世論の高まりを意識せざるを得なくなったためだろう。その意味でも核禁条約はすでに効果を発揮し始めている。
 だが岸田首相は、いまだに核禁条約に参画しようとしない。NPTと核禁条約は「核なき世界」をめざす両輪だ。双方の議論に加わり、補完しあう体制づくりに貢献することこそが、戦争被爆国の日本が果たすべき「橋渡し」ではないのか。

 (社説)核保有五大国声明 軍縮の実行へ動きだせ
                               2022年1月7日 秋田魁新聞

 核戦争回避、核軍縮交渉推進への決意をまずは歓迎すべきだろうか。米中ロ英仏の核保有五大国首脳が年明けに共同声明を発表した。ただ具体的な道筋は示されておらず、これを前進と受け止めるのは無理があろう。どのように核軍縮を進めるのか早急に示す必要がある。
 台湾統一を見据えて圧力を強める中国、昨年後半からウクライナ国境に軍部隊を展開するロシア。米中、米ロ間に激しい対立関係がある。そうした緊張関係の中で共に声明を発表できたことそのものに意味があることは確かだ。
 米中ロ英仏が加盟する核拡散防止条約(NPT)再検討会議はコロナ禍の影響で年明けの開催予定が延期となった。共同声明はこれに合わせて表明されたようだ。NPTは核保有を5カ国に限定して核軍縮交渉義務を課し、他の国の核保有を禁じている。ただ肝心の核軍縮は遅々として進んでいないのが現実。
 3月には核兵器禁止条約の第1回締約国会議が開催の予定。同条約は2017年に国連で採択され、昨年1月に発効した。核兵器を非人道兵器とし、全面的に違法化した史上初の国際条約だ。非核保有国が制定を主導し、核保有国の5カ国は参加していない。
 核兵器禁止条約に対して5カ国が反発しており、今回の声明はこれをけん制する思惑もあるようだ。しかし行動を伴わない言葉だけの声明で非核保有国側を納得させられるはずがない。
 唯一の戦争被爆国である日本は核兵器禁止条約を批准していない。米国の「核の傘」に守られている―というのがその理由だ。一方「せめてオブザーバー参加を」と求める声も強い。
 被爆地・広島が地元の岸田文雄首相は核軍縮への強い思いがある。それでもオブザーバー参加に慎重な姿勢を取らざるを得ないのが現状だ。
 米国の「核の傘」への依存は北大西洋条約機構(NATO)も同じ。ただ加盟国のノルウェー、ドイツは昨年、締約国会議へのオブザーバー参加を表明している。日米同盟を尊重しつつも、日本は唯一の戦争被爆国として世界の核軍縮進展に貢献する道を探る必要があるのではないか。
 北朝鮮は5日午前、日本海に飛翔(ひしょう)体1発を発射。北朝鮮側は「極超音速ミサイルの発射実験を行った」と報道している。米中ロ間では極超音速兵器を含む核開発競争が行われている。核軍縮どころか、世界で核戦力に関わる兵器開発が一層進んでいる現実が浮き彫りになった。
 声明通りに核軍縮が動きだすのかどうか。核兵器禁止条約の締約国が注視している。掛け声倒れに終われば、5カ国と非核保有国側との乖離(かいり)はますます拡大するだろう。その分断を解消するため日本が「橋渡し役」を担える場面もあるはずだ。まずはオブザーバー参加するための粘り強い外交が求められる。

 (社説)核戦争回避声明 理念だけでなく行動を
                                           2022年1月8日 東京新聞

 核兵器を保有する米ロ英仏中の5大国が「核戦争を防ぎ、軍拡競争や核の拡散を行わない」とする共同声明を発表した。
 声明は、米ニューヨークの国連本部で1月に予定されていた核拡散防止条約(NPT)再検討会議に合わせ、水面下で調整していたものだという。
 中国を含む核保有国が対立を乗り越え、共通認識を示したことは評価に値するが、核軍縮は大きな進展がないままだ。理念だけでなく、具体的行動こそ必要だ。
 そもそもNPTは6条で、核保有国に対し「誠実に核軍縮交渉を行う」ことを義務付けている。
 ところが、2015年に開かれた前回の再検討会議では各国の利害が対立。合意文書が見送られ、成果のないまま終わった。
 当初20年春に予定されていた再検討会議はたびたび延期され、期待が集まっていた1月の会議も8月開催となった。コロナ禍とはいえ、交渉をこれ以上先延ばしするわけにはいかない。
 世界にはまだ1万発以上の核兵器が存在する。米ロの中距離核戦力(INF)廃棄条約は2019年に失効したまま。中ロは独自に核戦力を増強し、対抗策として米国は核の小型化を図っている。
 北朝鮮が核開発を続け、イランも高濃縮ウランの製造を拡大するなど、核戦争につながる危うい動きは止まっていない。
 核非保有国が危機感を強めていることは、核兵器を違法とする「核兵器禁止条約」を59の国・地域が批准したことでも分かる。
 INF廃棄条約の実現に奔走した旧ソ連のゴルバチョフ大統領は昨年、本紙の書面インタビューに対し、米国とソ連は、何千ものミサイル、爆弾、核弾頭を蓄積し、自国軍を遠くまで派遣しながら、言葉では「平和を支持すると語ってきた」と指摘した。核大国の矛盾した姿勢を批判する発言だ。
 ゴルバチョフ氏は、まず米ロが本気で核削減に取り組むことが大切と語る。この言葉を核保有国は真剣に受け止め、「核なき世界」実現のための行動を、直ちに始めなければならない。